ハイポキセミアによる臓器血流の代償的増加と麻酔の修飾
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[目的] ハイポキセミアによる臓器血流の代償的増加を吸入麻酔薬が修飾する様子を検討する.
[背景] ハイポキセミアによって,全身の心拍出量も個々の臓器の血流も代償的に増加する.麻酔すると,この代償のメカニズムが障害されるということはいわれているが,明確な証拠は必ずしも整っていない.
[対象と使用薬物] ラット使用.3種の吸入麻酔薬と対照として麻酔なしの4種類と,ノルモキセミアとハイポキセミアを組み合わせた合計8群で各群6頭で測定した.吸入麻酔薬は,各々1MACで比較した.
[測定項目] 臓器の血流測定はRIマイクロスフェア注入による.
[方法] 対照群の動物は,一度麻酔してカテーテルの挿入などを行ってから覚醒させる.麻酔の動物は人工呼吸で維持.麻酔群では,Paco2 は30〜35mmHgのレベルに維持した. 吸入気酸素濃度は対照はFIo2 0.3で,ハイポキセミア群はFIo2 は0.12で20分間である.これで,Pao2 は35〜39mmHg程度.pHは対照群は7.44だが麻酔群では7.27程度であった.
[結果] 脳血流は,対照動物ではハイポキセミアでほぼ2倍に増加した.麻酔のみでは30%〜50%増加した.麻酔+ハイポキセミアでは,3種の吸入麻酔薬すべてで低下した.低下の度合いはエンフルレンが最大で,イソフルレンが最小であった. 冠状動脈血流は,対照動物ではハイポキセミアで増加した.吸入麻酔薬を与えると冠状動脈血流は減少した.麻酔+ハイポキセミアでも,これ以上は変化しなかった. つまり,覚醒動物と麻酔動物をノルモキセミアとハイポキセミアで比較すると,脳血流と冠状動脈血流のふるまいは大きく異なった. 腎血流,胃腸管血流,肝血流などは,覚醒動物ではハイポキセミアにしてもかわらなかった.しかし,麻酔とハイポキセミアを組み合わせると著減した.
[結論] ハイポキセミアによる臓器血流の代償的増加は,吸入麻酔薬によって抑制される.度合は脳血流も冠状動脈血流も大きいが,パターンは異なる.
抄録者:諏訪邦夫
Effects of hypoxemia on regional blood flows during anesthesia with halothane, enflurane, or isoflurane. Durieux ME, Sperry RJ, Longnecker DE. Anesthesilogy 1992; 76:402-408.
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諏訪邦夫
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