脊椎麻酔による心停止:決着症例の解析
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[目的] 脊椎麻酔による心停止症例14例の発表
[背景] ASAの事故検討委員会.アメリカは医療訴訟が多く,示談のものは公表されないが,保険にはわかる."closed claims" とは,正式に裁判になって判決が確定したもの,および示談で解決したものをあわせていう.
[研究の場] ASAの医療過誤900例の解決例記録.
[対象] 椎麻酔関係の事例
[方法] ASAの麻酔医療過誤事例のうちで最終的に決着した症例900例中で,特異な症例が多数見つかった.それを詳細に解析.
[結果] ASAの麻酔医療過誤で決着した事例900をしらべてところ,予想外の状況で,脊椎麻酔下で14例の心停止がみつかった.1978〜1986.特徴がある. 1-1) 患者は比較的若くて健康でASA1〜2.年齢は平均36歳. 1-2) 心停止は突然,予想外の条件で発生. 1-3) いずれも蘇生はしたが重大な後遺症. 1-4) 詳細な記録が存在する.記録の内容は
病歴と麻酔チャート,麻酔医の証言記録 外回りナースによる治療の記録と証言の記録 事後の神経内科専門医,ICU医師,レハビリ医師の評価 鑑定医の証言記録 なお,“脊椎麻酔による心停止”では上記14例以外にも8例あるが,このグループからは除外した.除外の理由は
術前状態が極端に悪い 1 麻酔に明らかなミス 5 記録が不十分 2
ASA2は6例で,うちわけは高血圧,喫煙,糖尿病(コントロール良好),肥満
男4,女10.定時9,緊急5.
手術は 骨盤腔8,下腹部2,直腸2,下肢2 仰臥位13 伏臥位1
担当の麻酔医 平均47歳 トレーニング終了後平均20年 専門医(Board-certified) 10
薬物 テトラカイン 10(量は6〜14mg) リドカイン 2 プロカイン 1 メピバカイン硬膜外麻酔が脊椎麻酔に 1
鎮静薬ないし鎮痛薬の投与が1回以上 12例 鎮静薬ないし鎮痛薬の投与が2回以上 9例 十分量で患者は沈黙:睡眠? 7例
上記薬物の最終投与から心停止の初発症状まで 12±7分
酸素投与 6例 うちマスク 3例 鼻プロング 3例
心停止にいたる経過 血圧の低下 心拍数の上昇
呼吸数の記録のあったのは14例中5例のみ
手術進行中に発生 13例 手術開始前に発生 1例
心停止までの麻酔時間 36分(12〜78分) 麻酔医が自分で麻酔中 8 麻酔ナースが麻酔中 5:のこる1例は? この5例中4例で,監督の麻酔医は他の症例の麻酔を担当中
6例は,中枢神経系障害が強く,そのまま病院で死亡した. 8例は生き残りはしたが,満足な生活ができるようになったのは1例だけであった. この14例を詳細に検索すると2つの特徴が判明した.
4-1) 患者と問答ができない程度に充分の鎮静を使用.
チアノ−ゼが気付かれたこともある. 使用薬物 例数 量 フェンタニル 9 108μg ディアゼパム 8 5mg ドロペリドル 5 3mg サイオペンタル 5 95mg その他 2
先行症状 1st 2nd 徐脈 7 2 低血圧 2 6 チアノ−ゼ 4 3 意識障害 1 1 心静止 0 2
蘇生に使った薬物 例数 量 エフェドリン 11 38mg アトロピン 10 1mg ジュウソウ 10 55mEq/L エピネフリン 10 1mg
4-2) 高位脊椎麻酔と心蘇生の困難の関係を意識していないように思えること.どうも,αアゴニストの使用が遅れているようである.
この研究の欠陥 “心停止”の解析でなくて,医療過誤訴訟で解決したもので,当然何事もなく蘇生されたようなものは含まれていない. 基礎になる脊椎麻酔の数が不明 コントロールはない データが直接担当者にたよっている部分が多い.
問題は,ここに述べられている14例とも“基本的には”ちゃんとした麻酔が施行されている点. ちゃんと監視しており,蘇生処置も早い.実際の蘇生にも時間がかかっていない. 蘇生後のケアは十分. [結論]特異な脊椎麻酔の事故がある.要注意.
文献: Caplan RA, Ward RJ, Posner KL, Ward RJ, Cheney FW. Unexpected cardiac arrest during spinal anesthesia : A closed claims analysis of predisposing factors. Anesthesiology. 68:5-11,1988. なお,この論文と関係したものとしては,下の二つがある.1はこの論文に対する論説,2は続報
脊椎麻酔による心停止:論説. Keats AS. Anesthesia mortality -- a new mechanism. Anesthesiology. 68:3-5,1988. 麻酔事故と呼吸のトラブル:解決症例の解析 Caplan RA, Posner KL, Ward RJ, Cheney FW. Adverse respiratory events in anesthesia: A closed claims analysis. Cheney FW, Posner KL, Caplan RA. Anesthesiology. 72:828-835,1990. 抄録者:諏訪邦夫
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諏訪邦夫
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