Adam−Kiewicz動脈損傷による麻痺
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ごく稀なことであるが,脊椎麻酔後に穿刺部位よりもはるかに高いレベルに及ぶ神経障害の及ぶ危険が知られている.
障害の状況: 特に脊椎麻酔にてこずった場合など.後に示すように血管損傷が関係するので,穿刺時の出血が前駆症状のこともある.
症状: 脊椎麻酔が切れるはずの時間が経過しても麻痺が消褪せず,持続する.あるいは,時間の経過と共にレベルがさらに高くなることもありうる.
メカニズム: 脊髄の血流は脊髄根動脈(肋間動脈,腰動脈の枝)から潅流されているが,その数は両側で2〜10本程度であり,下に行くほど数が少なくなる.脊髄下部が,たった一本の太い動脈で潅漑されている場合もある.発見者の名をつけて,Adam−Kiewicz動脈とも呼ぶ.Adam−Kiewiczは,19世紀にこの動脈を発見したオーストリアの解剖学者で,二人でなくて一人の名である. この動脈を,脊髄穿刺の際に傷付けて血流が途絶すると,麻痺が発生する.
予防: 脊椎麻酔そのものを上手に施行する. 出血した場合は注意.麻痺が持続しないことを確認する.麻痺が持続すれば,次の検索に進む.
診断: しっかり症状が出そろえば簡単だが,そこまで待っては遅い.麻痺の持続と神経学的な障害の状況を把握する. 血管造影が有用なはずだが,何しろ頻度は低いので,施行したデータそのものが乏しい.
治療: 血行再建の手術の報告はないが,診断がつけば可能性はある. 抗凝固薬の有効性も確立はしていないが,可能性は高い.
頻度: 不明.おそらく数十万件〜数百万件に1例程度だろう.裁判記録をみると,それを疑わせる症例がいくつかみつかる.日本の脊椎麻酔件数は,年間100万件程度と推測される.
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諏訪邦夫
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