脊麻後遅発性呼吸循環停止
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[概念] 脊椎麻酔から,かなり時間が経過した後に,呼吸と循環が停止する.
[時間経過] 最短で20分位.最長で2時間位.平均40分. たとえば,
虫垂炎の手術を完了してみたら呼吸がとまっていたとか, 無事病室へ戻って事故がおこった,というのもある. 例:深谷翼.麻酔・鎮痛事故の法律的責任 日本医事新報社 2300円.1984年 のP73からはじまる記載.これは時間が40分. 一般の麻酔学の教科書には,「脊椎麻酔合併症」として記載されていない. その他に事件の症例集とくに法律関係の症例集にもよくのっている. 有名な駒込病院の例が典型例だが,これでは時間は2時間近く経過している.
[問題点] 一般医師はもちろん,専門の麻酔医もこういう現象の存在そのものを認識していない.諏訪も,こういう現象が「挿話」としては聞いていたが,下記の論文を読むまでは,明確なカテゴリーとしては認識していなかった. 麻酔学の教科書には,本「電子版麻酔学教科書」以外に記載されていた例をしらない. 頻度が低いことはたしかで,たとえば脊椎麻酔1000例に1例もない程度だろう. それでも,脊椎麻酔の例数は日本全体で年間100万例あるから,1年に数百例? 挿話としては伝えられている.
[メカニズム] 不明 術中の鎮痛薬使用が発生しやすくすることは確実 脊椎麻酔が固定していなかったとか,他の原因で何とか説明しようとする場合も多い.もちろん,決定的に否定もできない.
[仮説] 睡眠時無呼吸症侯群と類似のメカニズムが考えやすい. つまり,脊椎麻酔ではよく眠る.意識レベルが低下する.睡眠状態になる. そうすると気道閉塞がおこる. 通常の睡眠時無呼吸症侯群では,気道閉塞で呼吸ができないと,胸郭の動きや血液ガスの悪化を察知して,覚醒反応がおこる. その気道閉塞に対する覚醒反応が脊椎麻酔ではおこりにくい.脊椎麻酔自体・鎮痛薬の作用・手術の影響などが影響? もちろん,脊椎麻酔で交感神経ブロックがおこっていることが,身体反応を乏しくして,蘇生もむずかしくするだろう. このメカニズムに迫る動物実験や人体実験に基づく報告は1997年の時点では存在しない.
[参考文献] Caplan RA, Ward RJ, Posner KL, Ward RJ, Cheney FW. Unexpected cardiac arrest during spinal anesthesia : A closed claims analysis of predisposing factors. Anesthesiology. 68:5-11,1988.
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諏訪邦夫
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