とてもかわった脊椎麻酔の経験 脊椎麻酔
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とてもかわったルートから脊椎麻酔を行った経験がある. 1986年7月17日 東京大学医学部附属病院手術室にて
患者: 62歳男性 150cm,57kg
診断: くも膜下出血+肺炎+頭蓋骨欠損
予定手術:脳室腰髄くも膜下シャントの再建術+頭蓋骨欠損部形成
問題点: 肺炎のために術前の血液ガス不良,Fio2 は40%程度が必要. 意識低下(100〜200),痛みには反応する. この2ヶ月前にクリッピング施行. 肝酵素上昇 心機能は不良なことは確実だが評価は不十分. 気管切開はしてある.分泌物多い.
状況: 手術の性質からも深い麻酔も必要なかったので,極く浅い全身麻酔(笑気/酸素:50/50+0.2%程度のハロセン)に,局所麻酔を併用して手術を進めていた. 頭部は無事終了し,ついですでに入っていたシャントの腰髄側の管を外に出して,次に側腹部から腹腔に入っているくも膜下管の操作になった. 腹筋が硬くて手術がやりにくいので腹筋の弛緩が必要になった.筋弛緩薬を投与しようか,ハロセンを深くしようかと考えていたが,患者の状態から麻酔を深くもしたくないし,人工呼吸にもしたくなかった.脳外科の患者によくみられるように,ステロイドが大量に行っていて肥っていた故もある. ふと気が付いて,術野にあるカテ−テルから腰部くも膜下腔にテトラカイン12mgを術者に注入してもらった.予想に違わず見事な筋弛緩が得られて手術を無事終了できた. 術野から脊椎麻酔を施行してもらったのは著者としては唯一の経験である.
文献的には: 類似の報告は見つからなかったが,しかしまったくないとも思えない. ただし文献的には開腹手術で術野から(前方からのアプローチで針をつかって),脊椎麻酔を施行した報告はあるという.またラミネクで術野に局所麻酔薬を投与して硬膜外麻酔をえた経験はある. 脊椎麻酔,硬膜外麻酔,術野からの麻酔 他にも術野から薬を加えてもらったら効果の得られそうな状況がありそうである.
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諏訪邦夫
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