電子版麻酔学教科書

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  経食道心エコー (TEE:transoesophageal echocardiography) #47
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 21時50分
経食道心エコー (TEE:transoesophageal echocardiography)
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経食道心エコー (TEE:transoesophageal echocardiography)

TEEがはやりである.これが,心臓の動きと大動脈の血流に関して有用な情報ソースであることには疑いない.テクノロジーとしてあたらしい故もあり,また私の周囲には自由に使用できる装置がないので,自身は経験がとぼしい.それ故に,この装置と方法への気持ちを遠くしている.

これまでにもいろいろな学会で講演を聴いてはいた.論文もまったく読まなかったわけでもない.しかし,今回まとめて論文を読んでみた結論はつぎのようになる.基本的には,以前からもっていた意見と同一である.

研究機器・臨床診断の機器としての有用性は疑いもない.しかし,ルーチンモニターとなると疑問が残る.理由は二つ,費用とパターン認識である点である.

費用の点はわかりやすい.現時点で1千万円〜数千万円の装置であるから,手術室に一台そなえるのも大変である.パルスオキシメーターの場合,100万円を切るレベルになって急激に普及するようになったというのが,われわれの認識であるが,この装置がそうなることが望めるであろうか.

もう一つの問題,パターン認識とはこういうことである.パルスオキシメーターの素晴らしさは,動脈血酸素飽和度は高校生でも知っているようなパラメーターで,しかも数字で明確にでる点である.測定値の意味をあらためて勉強する必要はなかった.しかし,エコーの場合は,基礎の画像自体が何を意味するのか,どういう画像がどういう変化に対応するのかを勉強する必要がある.つまり,それを読み取ること自体が医師の診断作業である.そうすると,麻酔の業務の一部として,他の仕事の片手間にできるかはわからない.現在は,専門家が臨床研究のために使用しているが,エコーを読むために医師がもう一人必要などということになったら,これは装置の価格どころの話しではない.とんでもなく費用のかかる装置ということになる.それが普及を阻害するだろう.

したがって,今後の課題としては,


パターン認識にとどまらず,さしたるトレーニングなしに有用な情報が得られて,活用できる方策
価格.特にソフトウェアつきの価格.それは1)の問題とも関係してくる.
という2点に絞られると思う.

本シリーズに取り上げたものとしては,ルーチンモニタ−としての使用はむしろ少ない.テーマを明確にした研究ないし臨床研究的なものがほとんどである.

麻酔のモニタ−に関するマーフィの法則にこういうのがある.

どんなに使いにくいモニターも,推薦する人が必ずいる.
使えそうもないモニターほど,学会発表が多い.
論文を書いた人は,そのモニター装置を使わない.
TEEがこの範疇に入らないように望みたい.


文献
日本語タイトル:経食道心エコーによる一般外科の中の心筋の虚血の術中の事前評価:現況と将来.
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Intra-operative assessment of myocardial ischaemia during general surgery by transoesophageal echocardiography:Present state and future perspectives. Kozakova M, Palombo C, Benanti CF, Giunta F, Distante A, L'Abbate A. Clin Intensive Care. 4(5):232-240, 1993.
施設:CNR Inst Clin Physiol, via Savi 8, 56100 Pisa, Italy.

[目的]
周術期の心筋虚血の早期発見に,経食道心エコー (TEE) を適用する問題の現状と将来の見通しを,心臓手術とそれ以外の一般手術も含めた手術全体で考察する.

[背景]
心筋虚血の問題は,臨床的意義が増大している.理由は,第1に,手術患者の中で,高齢者の頻度が高まっているから心臓血管のリスクの高い患者が増している点,
第2に,麻酔手技を含めて医療そのものが改善されているので,心筋虚血を早期発見できれば対応できるからである.
中でも,心エコー(TEE)は,手術患者の心臓のモニタリングに有力な方法として,今後の発展を期待されている.
そこで,術中の心筋の作用と心筋虚血のTEEモニタリングを,感度,特異性,実用性などから概説し,心電図と他の観血的モニターと比較しよう.

[わかること]
たとえば,心エコーモニタリング中に,アシナジー(動き不良)部位があらたに検出されれば,心筋虚血の早期診断指標として,信頼度が高い.

[問題点]
まず,アシナジー部位がありながら,虚血になっていない問題を検討する.それが本当に存在するなら,TEE の特異性が減ることになり,それだけ有用性も低下するからである.

[可能性]
現時点では,心エコーモニタリングの内容は,「動いているかいないか」をみることと,「循環動態のパラメーターを,動きから定量的に計測する」ことの二つに限定されている.
今後さらに,アシナジー部位の心室壁の超音波特性を検討することで,心筋虚血の組織的な情報がもっといろいろ確実に得られることになるかもしれない.ただし,この手法は現時点では研究段階にとどまっており,実用レベルには達していない.

[教育的価値と問題点]
心エコーの価値の一つに,教育的価値をあげよう.定量的な数値が得られればもちろんであるが,そうでなくても画面を見ながら学生や研修医を教育できるのは大きな利点で,心音を聴診器で聴くのとは大きな差がある.
それと関係するが,麻酔医が心機能モニターとして術中のエコー・ドプラー評価に関わるのだから,これを勉強しなければならない.

[解説者のコメント]
心エコーの総説・解説は数限りなくあるが,その一つである.「心室壁の超音波特性を検討して心筋虚血の組織的な情報を得る」という話しは,いわれればできそうには思えるが,知らなかった.


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諏訪邦夫

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