麻酔ガスの測定 − マススペクトロメーターと赤外吸収
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麻酔ガスの濃度測定は,研究テーマとしては古いが,臨床の問題としては施行されるようになったのはつい最近である.1992年の時点では,まだ日本中に確立普及したとはいえない. 理由はいくつかある.
測定がかなり困難で,高価な機器を必要とすること
患者のレベルでは測定していなくても,麻酔器でつくって患者に吸わせるものの濃度は以前から分っており,その方はかなり正確である.
したがって,改めて患者での数値を測定しなくて良いと“考えてきた”. マススペクトロメーターの使用 最近マススペクトロメーターの使用がようやく軌道にのってきた.これによって,麻酔ガスの濃度が高速で正確に計れるようになった.マススペクトロメーターは気相のガスを測定するのは得意で,一台の機械で酸素も炭酸ガスも笑気もハロセンも,という具合になんでも一度に測定できる.ただし液相のガスを測定するのは苦手で,患者の血液の酸素を測定する目的には適しない.またこの装置は大型の真空機器であり,価格も1台が1千万円以上と高価なので,患者毎に一台ずつ使う訳にはいかない.そこで1台の機械を10人から15人の患者に使用する方法が工夫されている.東京大学医学部麻酔学教室でも1980年代末からこの方法で計れるようになった.
「測らなくても分っている」と思っていたことが,実際に測定してみると意外なことばかりだった,というのは今までの医学の歴史が,いや科学全体の歴史が繰り返し証明していることである.吸入麻酔薬の測定からもきっと新しい発見が生れることと思う.小さなことだが,薬剤の誤注入(気化器と薬剤の組み合わせをあやまった例)や,気化器の誤動作はマススペクトロメーターのおかげで何回か発見した.
マススペクトロメーターは頼もしいが高価すぎる.メンテナンスも困難であるし,こわれると大変である.診療機器としての実用性には疑問が残る.
赤外吸収など 最近では,赤外吸収による麻酔ガスの測定が確実で安価にできるようになってきた.生理ガス測定の装置や,麻酔モニタ−の装置に組み込まれて廉価に提供されるようになった.今後の方向はこちらだろう.マススペクトロメーターの使用は限定される.
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諏訪邦夫
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