電子版麻酔学教科書

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  動脈カテーテルの血圧は極端に低くでることがある #44
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 21時46分
動脈カテーテルの血圧は極端に低くでることがある

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手が温かくて,動脈カテーテルの血圧が低く計れた症例

女性の患者 54F 変形性股関節症,右全人工股関節置換術


事件:
自動血圧計の測定値は90/60なのに,動脈カテーテル(同側の橈骨動脈)に刺入したカテーテルからの測定値は66/45位.

手を見たら大変に温かい.
その手を両手でぎゅーっとにぎるとカテーテルの圧は上昇して,自動血圧計の圧に近付く.
これを反復して見て,再現性があるので記録を取った.
この患者で,これに関係がありそうなのは

術前1250mlの自己血輸血用の採血
麻酔開始後に320mlの自己血輸血用の採血
したがって,麻酔中は貧血状態になって, hyperdynamic & low viscosity の状態になっていたことが推測される.
しかし,なぜいままでこういうことがなかったのだろうか.
自己血輸血用の採血を施行する患者に注目すること.
その他に,

星状神経節ブロックをする.
動脈カテーテルから血管拡張薬を入れる.
動物実験

カテーテルによるBP測定が低く出る問題.
PAT,HATで低く出るのは
 血が薄くなって
hyperdynamic になる.
粘性が下がる.
 この状態を人工的に作るには

こういう症例を集める.
動物実験

この他に
SGBをやって見る.
動脈カテーテルからSNPを注入する.
深部体温の測定と結びつける.

[文献]
Mohr R. Inaccuracy of radial artery pressure measurement after cardiac operations. J Thor Cardiovasc Surg. 94:286-90.1987.

48例のCPB患者(A群)で40例で,股動脈と橈骨動脈に平均8.6mmHgの差.差のなかった8例(B群)では心拍出量が下がりSVRが上がっていたのに対して,この40例では心拍出量は術前と等しく,SVRは少し下がっていた.A群に輸液をすると心係数が3.3から2.6と低下して,股動脈と橈骨動脈の差が消失した!
“Peripheral constriction”によるのだ,と結論している.

Kroeker EJ, Wood EH. Comparison of simulultaneously recorded central and peripheral arterial pressure pulses during rest, exercise and tilted position in man. Circ Res 3:623-32. 1955.

Pascarelli EF, Bertrand CA. Comparison of blood pressures in the arm and legs.New Eng J Med 270:693-8.1964.

Stern DH, Gerson JI, Allen FB, Parker FB. Can we trust the direct radial artery prressure immediately following cardiopulmonary bypass ? Anesthesiology 62:557-61.1985.

これは現象は,僕のみている現象と同一.“血管拡張”と結論していることも正しい.しかし,
手をスクイーズすると上がる,という現象は見ていない.
血管拡張は測定部位(手首)より proximal にシャントがあるためだ,という結論なのが気にいらない.

O'Rouke MF. Pressure and flow waves in systemic arteries and the anatomical design of the arterial system. J Appl Physiol 23:139-49, '67.
これは綺麗な波形はでているが,あまり直接の関係はなさそうである.


丸山一男,橋本宇,大井由美子,奥田真弘,栗岡孝明,堀内良二,小西邦彦,宗行万之助.
心臓手術中の大腿動脈圧,橈骨動脈圧の圧差の検討 − 亜硝酸剤,カルシウム拮抗薬使用に関連して. 循環制御 9(4):475-481.1988.

CPBを用いた手術にtng,nicargipine 投与群では圧差が存在したが非投与群では圧差がなかった.

沢村成史,諏訪邦夫,沼田克雄

 論文タイトル:カテーテルによる血圧測定値が低いのは末梢抵抗低下によることが多い
橈骨動脈カテーテルによる血圧測定において,通常のように血流を維持したまま施行すると,カテーテルより末梢の血流を止めて測定した場合よりも遥かに低く測定される場合があることを見出した.

この現象に最初に気付いた症例は,54歳の女性で,疾患は変形性股関節症,手術は右全人工股関節置換術であり,麻酔は硬膜外麻酔+全身麻酔であった.オッシレーションによる自動血圧計の測定値は90/60 mmHg程度であるのに,同側の橈骨動脈に刺入したカテーテルからの測定値は66/45程度であった.患者の手に触れてみると大変に温かく,血流が豊かであることが感知された.この手を麻酔医が両手で包むようにして圧迫すると,カテーテルの圧は上昇して自動血圧計の読みに近付いた(図).この現象は反復して,再現性があることが確認された.この患者では手術前日までに1250ml,さらに手術開始直前に320mlの自家血採血を受けていた. この現象を積極的に探索してみたところ,4週間以内に10例以上の症例において同様の現象を見出した.但し,程度は上記ほどではない場合が多いが,すべて10mmHg以上の差が見られた.自家血採血を受けた患者ではこの現象の発生頻度が高いように思われるが,それ以外の患者でも同様の現象が見られている.



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諏訪邦夫

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