老人・肥満者の%VCに注意
-------------------------------------------------------------------------------- 「%VC(や%FVC)が50%未満の患者では肺合併症の発生率が高い」,というのは麻酔医や外科医の一致した意見である.データ的な裏付もあるから確かにその通りだが,%VCを老人や肥満患者に当てはめて評価するには注意が必要である.その理由は %VC算出の基準となるVCの“正常値”は,「あってほしい値」と いう立場からみると高齢者や肥満者では不当に小さいものである. その理由は高齢者や肥満者では,体重・体型・代謝量・換気必要量の 割にはVCが確かに小さいという事実が存在するからである. 従って,%VCは「正常と比較する」という意味では正しいが,「予 備力を評価する」という立場からみると,高齢者・肥満者では実際の 予備力は貧弱でも,%VC値は意外に大きく「予備力は十分」と誤っ て評価してしまう危険なパラメ−タである. この点を症例で説明する.この患者は69才の女性で身長は150cm,体 重は70kgであり,VCの実測値1380mlであった.予測値1 967ml(ここではFerrisの努力肺活量の式を使用している) の70%もあって,「充分合格」とみえる.ところが−−− この患者は大変に肥っている.身長体重指数(BMI:体重/身長2) は31以上である.この患者の体重で標準体型(身長体重指数22位) の場合,身長は178cm位にもなるはずである. 身長178cmで年齢30才の女性の予測肺活量は3784mlである. 従って,この患者を「30才で同体重,標準体型の健康人の肺活量」 に比較すると36%しかない.つまり%VCを「予備力」という立場 でみると,この患者は「本来あるべきVC」の36%しかない,とい うことになる. 要するにこの患者の予備力はそもそも年齢と体型とから48%(3784→ 1967)も低下している上に,この患者特有の疾患によってさらに30%(1967→1380)も低下しているわけである. 以上の計算では老人や肥満者に「固有」の細胞や化学の問題をとくに考慮していないが,それでもこんなに悪い訳である.
この関係を図1に示した.これは横軸に肥満度を,縦軸に標準体形の患者に比較した%VC(%FVC)の低下の度合いを示している(図1).
なお,換算に必要な式は下の通り. BMI =体重(kg)/[身長(m)]^2 :正常値は20〜22 努力肺活量予測の式はいろいろあるが,たとえばFerrisの式は 男 =51×身長(cm)−25×年齢−3550 女 =33×身長(cm)−23×年齢−1400 簡単な覚えかたとしては「年齢が100才になったらVCの予測は半分になる(従って80才では60%),としていてもよいとおもう.
身長の単位がBMIではメートルで,VCやFVCの予測式ではcmなのが不満であるが,間違えることもないだろう.
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諏訪邦夫
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