TIA:一時的脳虚血発作
-------------------------------------------------------------------------------- 註:この文章は,AMSのエーテルネットに書き込んだ自分の文章に少し手をいれたものです.
質問 TIA:一時的脳虚血発作のあった患者に対する麻酔をどう考えるべきか. 解答 TIA:一時的脳虚血発作の御質問に対する回答が,データつきで報告されていないかと2,3調べて見ましたが,結局見当りませんでした. そこで,“常識と論理で”お答えしようと試みます. われわれ一般麻酔医から見ると,“TIAと脳硬塞”というのは,あまり頻度が高くないし,あってもあまり重要視しないように感じます.私自身の感じであって,一般化はできないのかもしれませんが. ところで,これが心臓の問題となるとずっと普遍的で,いろいろと議論されています.そこで,“TIAと脳硬塞”を心臓に当てはめて,“狭心症発作と心筋梗塞”の対比で考えます(これは私の独断でしょうか?). “狭心症発作”は重大ではありますが,でも手術が必要な場合は適切な治療を組み合わせながら麻酔は強行するもの,強行できるものということになっています. これに対して,“心筋梗塞”直後の手術と麻酔は再硬塞の危険が高く,3ヶ月〜6ヶ月は麻酔を避けるべし,というのが,現在でも定説です(現在の最先端のマネージメントなら,かって言われたほどには危険は大きくない,という意見も少しずつでてきています.私もそれに少し賛成です). したがって,これだけの議論なら“狭心症と心筋梗塞”の類推で,“脳硬塞”は慎重な必要があるが“TIA”は強行してもよい,ということになるのです. ところで,私自身に分らないのは, もそも“TIAと脳硬塞”の比較を“狭心症と心筋梗塞”と対比していいものなのか. 心臓の酸素の需給に関しては,動脈圧やスワン・ガンスカテ−テルで,麻酔中や術後もある程度把握できますが(把握できるつもりですが),脳の酸素需給はどう把握するか. 麻酔中から直後の問題も,心臓のそれのように脳の事件を捉らえられるか.たとえば,心臓の場合の不整脈の発生や心不全の発生にあたる事件を,脳で捉らえられるか. 冠状動脈に関しては,ニトログリセリンやカルシウムチャンネルブロッカーなど切り札的な薬があるが,脳循環に対してはこれに対応するものがあるのか.といった点です. したがって,論理的には“TIAは普通の脳梗塞ほどには重要視しないでよいだろう.麻酔をひかえる期間は短くてよかろう”と考えますが,では具体的に何を使用し何をモニタ−しながら麻酔を施行して行くべきかとなると,明確な答えは差し上げられません. 曖昧な答えで申し訳ありませんが,こんなところです.諏訪邦夫
そこで気がついたことであるが, 脳波は麻酔による変化と,虚血による変化は区別できない,少なくとも区別しにくい.単純脳波でも,スペクトル分析でも同じことであろう. これに対して,EKGは麻酔による変化と虚血による変化は,歴然と異なる.これは当たり前のことであるが,何故だろう. TIAに関して, 二つの器質的疾患との関係が二つ知られている. 左房血栓 内頚動脈閉塞 の二つである.いずれもエコーや血管造影で診断できる. 脳のモニタ−は難しいので,せめて覚醒状態に保つこと.つまりできれば全身麻酔は避けて,部分麻酔で施行すること.
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |