“半身麻酔”を教えるのは
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“麻酔を教える”立場で，“半身麻酔”を教えるのがなかなかむずかしいことを述べておきます．
脊椎麻酔や各種ブロックを教えるのはけっこうむずかしく，不安もともなうものです．ある意味で，標準的な全身麻酔を教えるのよりもはるかにむずかしいと感ずることもあります．理由は何故か，どんな要因があるのか，それを列記してみます．
“簡単”と思っていること
最大の問題は，教わる側の方々が，“これはけっこう厄介で，問題も生じ得ることなのだ”ということを認識していない点です．“簡単なことだ”“ただ，針をさして麻酔のレベルを確認すれば終わりだ”としか考えない人に，いろいろと合併症の可能性を述べても説得力がありません．
術者についても同じことがいえます．ベテランの術者はそれなりに理解していますが，全身麻酔と同じように組織を乱暴に扱ったりお腹の中をかき回したりすれば，患者が苦しがったり痛がったりするのは当然なのです．
患者の意識があること
麻酔を教えたり教えられたりする際に，患者に聞かれないで済むというのはずいぶんありがたいことです．気管内挿管をてこずっても，ゆうぜんとやり直すだけですが，脊椎穿刺や硬膜外穿刺がうまくいかないと，行なっている当人もあせるし，教えている側も，患者に聞かれたくないので注意を控え目にします．それでますますうまく行きません．
“ちょっと鎮静”のむずかしさ
術者から“ちょっと鎮静して下さい”という注文のでることがあります．当然ではありますが，対応は容易ではありません．
“患者が不安だから鎮静薬を与えてほしい”のか，手術がうまくいかないから“痛みをしっかりとってほしい”のか，“術者同士で問答が必要だから，患者の意識をとってほしいのか”なかなか判りません．それによって，使用する薬物や方法がかわります．
“脊椎麻酔＋鎮静薬・鎮痛薬”のおそろしさ
“脊椎麻酔＋鎮静薬・鎮痛薬”の組み合わせで，おそろしい合併症である呼吸停止が発生します．
脊椎麻酔の合併症と処置
脊麻後遅発性呼吸循環停止
モニタ−と酸素
“簡単なことだ”という認識とも関係しますが，脊椎麻酔の場合，全身麻酔ほどにはモニタ−をつけません．とくに問題は“呼吸のモニタ−”です．全身麻酔なら“呼吸のモニタ−なしに施行する”ことは絶対にありません．バッグの動きでみるか，カプノグラムでみるかは別にして“たしかに呼吸している”ことは常時確認します．そうしなければなりません．
脊椎麻酔でもこの確認は必要なのですが，それは普及していません．脊椎麻酔をしてそのまま患者の枕元をはなれたり，たとえそこに“所在はしている”けれど“呼吸をモニタ−していない”頻度は非常に高いものです．
しかし，脊椎麻酔で呼吸はとまります．患者が眠れば呼吸はとまるのに，脊椎麻酔で患者が眠り込めば止らない理由がありません．しかも，ひとたび呼吸が停止した場合の結果は重大です．ふつうの睡眠時無呼吸では，呼吸が止まると苦しさを感知して覚醒反応が起って呼吸が再開するのですが，脊椎麻酔ではこの「苦しさを感知する」メカニズムに障害が生ずるらしいのです．鎮静薬や鎮痛薬を使用していればもちろんですが，純粋の脊椎麻酔でもどうもそうらしいのです．明確な研究結果はないのですが．
患者の訴えをどう解釈するか
手術によりますが，患者さんが“痛い”とか“苦しい”とか訴えます．これが，麻酔に原因があるのか，それも麻酔のレベルが不足なのか，一部抜けているのか，麻酔が効きすぎているのか，別の原因によるのか，判断はむずかしいものです．
一発勝負でやり直しが困難
脊椎麻酔は“一発勝負”です．薬をへんな場所にいれてしまえば，まったく無効です．手術がはじまってから無効が判明すると，やり直しができません．腕神経叢ブロックなどについても同じことがいえます．特に，こういうものでは薬物の使用量が多くて，その意味でも追加を逡巡します．
練習の回数
脊椎麻酔ならそれでもけっこう頻度があって，トレーニングもできます．しかし，各種のブロックとなると，個々のブロックは頻度は高いものではありません．腕神経叢ブロックでも，腋窩アプローチはまあチャンスがありますが，斜角筋間アプローチの頻度は低いでしょう．
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諏訪邦夫
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“半身麻酔”を教えるのは #48
