溶解度と分配係数
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概念 “分配係数”は,溶解度の一種である.図の様に「同量の気相と液相」との間に麻酔薬(一般に溶質)を平衡させたときに,分配する麻酔薬の比であらわす.
単位: 「比」であるから単位のない無名数である.
文字: 文字としてはギリシャ文字のλ(ラムダ)を充てる習慣である.
表現: 気相と液相を比較するときは,気相を分母にとる習慣になっている. ハロセンの「血液ガス分配係数」は2.3であるが,これは図のように平衡状態で気相に1,血液に2.3の割合で分布することを意味している. 分配係数は液相同志にも定義できる.例えば血液と脳組織との間のそれ(脳組織/血液分配係数)はやはり2.3程度である.この場合は明確な規定はないが,血液を分母にとる習慣になっている.両者の関係から脳組織/ガス分配係数は約5となることが分る(図).
図 血液ガス分配係数と組織ガス分配係数を示す模式図
血液ガス分配係数 組織ガス分配係数 ・-- -- -- -・ ・--------- ・ | ガス |1 | ガス |1 | | | | ・↓− −↑・ ・↓− −↑・ | | | | | 血液 |2.3 | 脳組織 |5 ・-- -- ----・ ・----------・
<メモ> ガスが液相に解ける溶解度の表現はいろいろあって,紛らわしい.ほとんどの場合,「ヘンリーの法則」が成立して,溶存ガス量は分圧に比例する. ただし,ガスが体構成分と化学的に結合する場合は,単純な比例ではない.その典型が酸素と血液の関係で,酸素解離曲線で表現されるあのS字状の関係になる. ここでは溶解度の問題を一寸検討する. 例として酸素の場合:
医学で使う表現 血漿への酸素の溶解度は,37度で0.0031ml/mmHg/100mlである. Po2が100mmHgでは,血液100mlに0.31mlの酸素が溶けている. ここで一つ注意を要するのは,溶解度が37度の場合を問題にしていても,解ける酸素の量はあくまでも「0℃,1気圧」つまりガスの標準状態で表現している点である. ブンゼン係数 いわゆる<溶解度>と<ブンゼン係数>の関係:物理化学ではブンゼン係数(英語では“バンセン”と発音するが,Bunsenはドイツ人である)を用いる.これは“1気圧あたり”という表現をとる.正確には,“圧は1気圧で,溶質と溶媒は同じ体積の単位で表現する.上記の<溶解度>との関係は,圧1mmHgでなくて1気圧なので760倍になり,量は100mlでなくて1mlなので1/100になるので,
0.0031ml/mmHg/100ml =0.0031×760/100ml/1気圧 =2.356ml/100ml =0.0235 l/l
一番下の表現がブンゼン単位,つまり酸素の溶解度をブンゼン係数で 表現すると0.0235ml/ml/1気圧である.
オストワルドの溶解度係数: その他の点はブンゼン係数に一致するが,溶けたガスの量を測定時の温度で表現する.(英語では“オズオォールド”と発音する.しかし,Ostwald もドイツ人で,強いて言えば“オストヴァルト”が原発音に近いだろう). 分配係数: 上記.この表現の優れている点はいくつもある. 無名数である.単位を引きずらなくて済む. 測定温度には規定されるが,表現するガスの温度は規定する必要がない. ガス相だけでなくて,上記のように血液と組織の平衡の表現にも使える. そうした利点が,吸入麻酔のファーマコキネティクスの表現に便利なために採用されている理由だろう. --------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
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