1台の麻酔器で二人麻酔した話
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麻酔器が一台しかないのに,患者を二人麻酔したくなって実行した経過を記録します.
時点: 1967年秋 場所: 西東京警察病院(1997年の時点で).1967年当時は,「東京警察病院多摩分院」と読んでいた. 状況: 当時は,ここで形成外科手術を数多く実行していました.術者は鷲尾先生(千葉大卒,現在ニューヨーク在住)と赤川先生(東大卒,後に口腔外科教授)の二人が行って手術をしていた,私も週に一回行ってその麻酔を担当していた. 手術室も,麻酔器も手術台も一つずつしかないので,原則は一列だったが. 小さい手術の場合に,運搬車を使って,同時に局所麻酔手術を平行に行ったことはあった. 麻酔器は1台しかなかったが,回路は通常の循環回路の他にジャクソンリース回路があって,当時は小児の麻酔にこちらを標準的に使っていた. 麻酔薬は,笑気+ハロセンが標準だったが,エーテルもときどき使用した. 術者は,二人とも早く帰りたい理由があった(理由の記録なし). 行ったこと: 一台の麻酔器で患者二人を麻酔する. 患者は成人と10歳ほどの小児で,いずれも顔面の小さな手術であったが, いずれも全身麻酔が必要であった. 二人を安全に麻酔するには,自発呼吸と安定した麻酔が必要なので, 笑気/エーテルを使用した. 麻酔器からの出口にY字コネクターをつないで,一つを循環回路に,もう一つはジャクソンリース回路につなぎ, まず,成人を普通に麻酔してから自発を出して,循環回路につなぎ,そちらへの道をクリップで細くして流量を極端に下げて,低流量ないし閉鎖状態にし ついで,ジャクソンリース回路を使って小児を麻酔して,こちらは適当な流量で麻酔を開始した. 後は,両者とも浅くなり過ぎないように,深くなり過ぎないように エーテルの濃度・全体の流量・二つの回路への流量などを調整した. ファーマコダイナミックスの知識を使って調整 成人側が先に終わったので,そちらは回路を開放して普通に覚醒させ, あまり遅れずに小児も終わった. 形成手術なので,手術の進行が非常によく見えており,しかも術者をよく知っていたからやりやすかったのが,こんなことの可能だった要因だと考えます. 蛇足: この事実は,リアルタイムに記録して,学会か専門誌に報告しておけばよかったと後悔しています.あとで気付いてメモしたものがみつかったので,ここに記録します. (1997年10月20日月曜日)
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諏訪邦夫
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