電子版麻酔学教科書

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  “時定数”を理解しよう #20
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 22時38分
“時定数”を理解しよう

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“時定数: time constant”というのは“変化の速度”を表わす指標である.

変化が単一指数関数的に起こる場合に,最終的な変化分の63%が起こるのに要する時間を時定数という.単位は“時間”である.

時定数の3倍では95%の変化が達成される.たとえば時定数が1分の現象なら,3分で95%が達成される.

この“63%”というのは自然対数の底につかう“e”に関係した数値である.

1−1/e=0.63である.変化の速度は“量”と“流れ”の比である.(量/流れ)が時定数になる.
時定数を,“流れの積算が量に等しくなるのに要する時間が時定数”と解釈することもできる.数学的には,流量を時定数だけ積分すれば当該の量になる,ということを表している.

放射線やファーマコキネティクスで使用する“半減時定数(半減期)”は,論理的な意義はここに述べた時定数と類似している.ただし,数値はやや小さい.


半減期=0.79×時定数
である.
時定数の考え方を使用する例


例1.
空気吸入から酸素吸入に切り換えて,肺内の酸素濃度が上昇する速度は?
機能的残気量(量)−− 2L
肺胞換気量(流れ)−− 4L/分
とする.
時定数は(量/流れ)である.これで計算すると,時定数は0.5分つまり30秒である.

はじめが,20%で最後が100%であるから,30秒後には約70%(20+80×0.63)となる.時定数の3倍では約96%(20+80×0.95)となる.つまり,1分30秒でほぼ完全に酸素になる.

時定数を“流れの積算が量に等しくなるのに要する時間が時定数”と解釈する立場からは,“4L/分の流れなら,30秒で機能的残気量2Lになるから,時定数は30秒”としてもよい.


例2.
2%ハロセンを投与して麻酔する際,脳などの主要臓器の麻酔レベルが1%のハロセンと同じ分圧レベルになるのに要する時間は?
主要臓器の量を20L,その平均分配係数を3とする(血液/ガス分配係数よりは少し大きい).“分布容量”(ガス等価容積)は60L.一方,流入量は肺胞換気量であるから4L/分.したがって時定数は15分.1%に達する時間は半減期だから約12分である.



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諏訪邦夫

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