“時定数”を理解しよう
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“時定数: time constant”というのは“変化の速度”を表わす指標である.
変化が単一指数関数的に起こる場合に,最終的な変化分の63%が起こるのに要する時間を時定数という.単位は“時間”である.
時定数の3倍では95%の変化が達成される.たとえば時定数が1分の現象なら,3分で95%が達成される.
この“63%”というのは自然対数の底につかう“e”に関係した数値である.
1−1/e=0.63である.変化の速度は“量”と“流れ”の比である.(量/流れ)が時定数になる. 時定数を,“流れの積算が量に等しくなるのに要する時間が時定数”と解釈することもできる.数学的には,流量を時定数だけ積分すれば当該の量になる,ということを表している.
放射線やファーマコキネティクスで使用する“半減時定数(半減期)”は,論理的な意義はここに述べた時定数と類似している.ただし,数値はやや小さい.
半減期=0.79×時定数 である. 時定数の考え方を使用する例
例1. 空気吸入から酸素吸入に切り換えて,肺内の酸素濃度が上昇する速度は? 機能的残気量(量)−− 2L 肺胞換気量(流れ)−− 4L/分 とする. 時定数は(量/流れ)である.これで計算すると,時定数は0.5分つまり30秒である.
はじめが,20%で最後が100%であるから,30秒後には約70%(20+80×0.63)となる.時定数の3倍では約96%(20+80×0.95)となる.つまり,1分30秒でほぼ完全に酸素になる.
時定数を“流れの積算が量に等しくなるのに要する時間が時定数”と解釈する立場からは,“4L/分の流れなら,30秒で機能的残気量2Lになるから,時定数は30秒”としてもよい.
例2. 2%ハロセンを投与して麻酔する際,脳などの主要臓器の麻酔レベルが1%のハロセンと同じ分圧レベルになるのに要する時間は? 主要臓器の量を20L,その平均分配係数を3とする(血液/ガス分配係数よりは少し大きい).“分布容量”(ガス等価容積)は60L.一方,流入量は肺胞換気量であるから4L/分.したがって時定数は15分.1%に達する時間は半減期だから約12分である.
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諏訪邦夫
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