木材や化石燃料からでる笑気の量は多くない
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ポイント:石油と石炭の使用による亜酸化窒素(笑気)産生量を評価する.
[背景] 亜酸化窒素は,オゾン層を破壊する作用がある.また二酸化炭素と同様に“温室効果”もある.したがって,大気中の亜酸化窒素の増量は,地球のエコロジーの面から重大な意義がある.従来,亜酸化窒素は年率0.2%の割合で急速に増加していると報告されていた.この亜酸化窒素の源は化石燃料(石油と石炭)と生体燃料(木材)から由来するとされていた.ところが,最近の研究によると,従来の亜酸化窒素産生の測定値は,燃焼ガスを集めて分析する際の誤差であって,化石燃料を燃やしてもそれほど大量の亜酸化窒素がでることはない,という意見が有力になってきた.
[研究の場] 研究室と野外での燃焼実験(“火災発生実験”というべきか).また,本当の火災現場でサンプルを採取したものも含む.
[対象]化石燃料と亜酸化窒素
[使用機器]ガスクロマトグラフ.検出はニッケルによる.
[測定項目] 亜酸化窒素の即時測定とサンプルによる精密測定.二酸化炭素発生量を基準にして亜酸化窒素を測定する.つまりdN2O/dCO2 を算出する.
[方法] カナダ,オンタリオ州のモーリー湖で,1990年7月24日に300ヘクタールの火災を発生させた.この領域の森の木を切り倒して集めて燃やし,上空からヘリコプターで空気をサンプルした.化石燃料や生体燃料からでる燃焼ガスを集めて亜酸化窒素を分析する方法は,従来基本的に同一なので,この誤差を正して産生する亜酸化窒素量の正確な評価と試みた.発生する亜酸化窒素の量を評価するのに,一つは発生の時点でそのまま分析し,もう一つは従来のように“ビンに集めて分析する”方法を採用して比較している.この“ビンに集めて分析する”方法は採取後10日間反復している.自然発生した大きな山火事でもサンプルを採取して分析している.この他に,27の個別の研究室でも燃焼実験を行って,上記の野外実験と比較対照している.
[結果] dN2O/dCO2 の比は,どの地点でも0.0001〜0.0002の間に安定していた.即時測定でも,サンプルを研究室に持ち帰って8時間後に測定したものでも基本的に差はなかった. サンプルを保管して経時的に測定すると,10日間に有意に増加することがある. dN2O/dCO2 の比は,都市の火災や山火事では上記の比にほぼ等しい. ただし,研究室で好条件で燃焼させるとこの比は1桁低い. 以上の測定値はいずれも従来報告されていたものよりもかなり低値である.
[結論] 化石燃料の使用から生ずる亜酸化窒素の量は,大気中に存在する亜酸化窒素全体の7%程度である.従来の測定値からみると,数分の1程度にしかあたらない.
New estimates of nitrous oxide emissions from biomass burning. Cofer WR III, Levine JS, Winstead EL, Stocks BJ. NATURE. 1991. 349:689-691.
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諏訪邦夫
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