電子版麻酔学教科書

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  付:サリン #5
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 13時31分
付:サリン

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1994年6月27日夜の松本市での殺人事件(7人の死亡,60人近い傷害),1995年3月20日月曜日の地下鉄サリン事件など,サリンが急に有名になった.


化学と構造:
(CH3)2CH-(CH3-)POF:リン原子を中心に,イソプロピル基,メチル基,酸素(二重結合),フッ素のついた形.
近縁の物質にタブンとソマンがある.

歴史:
もう有名になった.第2次大戦直前にドイツで開発された.いずれもDFP(di-isopropyl-fluorophosphate)に似た構造である.

作用:
コリンエステラ−ゼ阻害薬.力価が猛烈につよいのが特徴.
常温で液体ではあるが,気化する分で十分すぎる位殺傷能力がある.

臨床症状:
もう有名になった.コリンエステラ−ゼ阻害薬だから,アセチルコリン多量の症状である.縮瞳,視力障害,けいれん(中枢のアセチルコリン過量+ハイポキシア)

治療:
対症的にはTR.根本的にはPAM.後者は,コリンエステラ−ゼの活性を回復させる.

蛇足:
私は偶然,サリン・タブン・ソマンの三者を知っていた.松本の事件の翌日に,パソコンネットに“これは有機リン系の毒ガスだ”と断定して書き込んでいる.
松本事件のサリンの量は,数グラムや数十グラムではない.1kg〜10kgの量である.
地下鉄の事件では,アセトニトリルが検出されている.これはシアンを出す化合物である.シアン中毒の要素はなかったのだろうか.
英語の発音は,日本での発音と異なり,サリンはリにアクセントがある.ソマンもマにアクセントがある.タブンは“タビュン”という発音で,もちろんビュにアクセントがある.
分子量は130位で,ガスとしては非常に重い.しかし,興味深いのは,マンションの3階4階といった高いところの住民に被害が及んでいる点で,当日の異常気象と関係があるのではないか.当日(1994年6月27日)は,日中が異常に暑く30℃を越えている.それが,事件発生の23:00ころには20℃に下がっている.そのために,地面や建物があたたまったままでいて,それが毒ガスの対流を招いているのではないか.そういった条件がないと,こんな重いガスが高濃度のまま高いところに流れると考えるのはむずかしい.


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諏訪邦夫

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 付:サリン - 諏訪邦夫 [#5] 2001/02/11 13:31



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