救急処置の訓練
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救急処置とくに蘇生術の施行は,一般医師にとっては頻度は低い.しかし,所謂「蘇生術」は類型的で,症例毎の差は少ない.従って,“準備”と“訓練”との成果が上がりやすい. さらに蘇生技術の良否は直接患者の生命予後にかかわってくる.当然,蘇生術は上手に施行せねばならない.
こういう条件では,蘇生術をマスターするのは「現場で実際に経験して」というのは不可能である.組織的な学習と定期的な演習が不可欠である.演習の回数としては,少なくても1年に1回必要とされている.この点は,外国での研究で証明されている.
蛇足: 以前なら,“麻酔のトレーニングを2年も受ければ”救急処置とくに蘇生術は自然に身についた.蘇生術が簡単だったのも理由だが,それ以外に以前は手術室でよく事故が起って心臓が止ったのと,手術室の外でも蘇生に詳しい医師が麻酔医が中心だったからである.“救急専門医”というのもいなかった. 今は条件が異なる.麻酔医として手術室で麻酔だけを行なっていたら心蘇生のチャンスは全くない.手術室の外の蘇生は救急医師が担当して呉れる.だから,麻酔のトレーニングは蘇生のトレーニングにならない.
しばらく前のこと,日本でのバレーボールの試合の現場でハイマンという選手が心停止で死亡した.このヴィディオをみると,誰も蘇生術を施行していないということで,後で論議された.心停止の原因は胸部動脈瘤の破裂であって,たとえ蘇生術を施行していても救命の可能性はほとんどなかったことであろう.それにしても,心停止で倒れている患者を前にただ茫然としていたのはトレーニング不足を物語るものではある.
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諏訪邦夫
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