蘇生後の問題点
--------------------------------------------------------------------------------
東京大学医学部麻酔学教室 諏訪邦夫 心肺蘇生後の問題点として心肺蘇生後の病態生理を説明し,これに対応するべきモニタ−と測定,治療法・薬物などを述べる.
低酸素と酸素負債
組織レベルでみると必ずハイポキシアの後遺症,即ち酸素負債の状態が残っている.アシドーシス・乳酸蓄積は勿論であるが,膜の破壊によるK+イオンの漏出,ATP→ADPからさらに分解の進んだ代謝産物(アデノシン,ヒポキサンチン,キサンチン)の影響も重要である.
→ 血液ガス,K+測定,GIK
代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシス 心肺蘇生後は組織にも,血液にも強い代謝性アシドーシスがある.酸素供給の障害により嫌気性代謝が亢進してピルビン酸と乳酸が増量しているからである.さらにこの組織レベルでの強い代謝性アシドーシスは必ず呼吸性アシドーシスを招く.
H+ + HCO - → CO + H O
の反応で,水素イオンが炭酸ガスに転換されるからである.→血液ガス,人工呼吸,アルカリ輸液
心機能 原疾患にもよるが心肺蘇生後の心機能は障害されていると思わねばならない.その度合を評価し,適切な薬物の使用で補っていく必要がある.ブロックがあればペ−スメーカーの使用も. →CVP,スワン・ガンスカテ−テル,心拍数のコントロール,不整脈のコントロール,心臓刺激薬,ペースメーカー
肺機能と肺ガス交換・肺循環 肺の酸素化能は必ず障害されている.肺血管の機能的狭窄・基質的閉塞によりVD/VTが増大している.→血液ガス,スワン・ガンスカテーテル,人工呼吸,高濃度酸素の投与,肺血管拡張薬
中枢神経系 脳循環と脳の代謝は必ず障害を受けている.これを保護せねばならない.→脳波,頭蓋内圧測定,脳圧下降,GIK,Pco ,マニトール,モルフィン,ジアゼパム,クロルプロマジン
末梢循環と組織血流・組織代謝 カテコ−ルアミンの増量(内因性乃至心肺蘇生時の使用によって)があれば,拮抗薬を使用する.→血管拡張薬・GIK,ステロイド
腎の保護と利尿 腎血流を維持し,利尿を計る.→フロセマイド,マニトール,ドパミン.
循環血漿量の維持 ハイポキシア,血管透過性の増大などで血漿成分の漏出が起り,水分と血漿蛋白が組織に失われるので,循環血漿量も減少する.→CVP,TP 従って心肺蘇生後は次のような測定とモニターが望ましい.
直接動脈圧,血液ガス,CVPとスワン・ガンスカテーテル, 血清電解質,尿量,TP,グルコース EKG,体温, (脳波,頭蓋内圧) 使用すべき乃至使用を考慮すべき治療法と薬剤は
高濃度酸素と人工呼吸 輸血と蛋白製剤の投与 GIK ペースメーカー 血管拡張薬 − モルフィン,ニトログリセリン,ステロイド,(レジチン,クロルプロマジン) 膜保護薬 − ステロイド 抗不整脈薬 − キシロカイン,(プロカインアマイド) 心臓刺激薬 − ドブタミン,(イソプロテレノール,ジギタリス) 中枢神経系保護薬 − モルフィン,ジアゼパム,クロルプロマジン 利尿薬 − フロセマイド,マニトール,ドパミン
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |