電子版麻酔学教科書

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  dTc(クラ−レ,dトボクラリン) #20
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月10日 16時05分
dTc(クラ−レ,dトボクラリン)

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d-tubocurarine, curare


種類:
非脱分極型筋弛緩薬
古典的筋弛緩薬.使用頻度は低下しているが,価格も安いし現在も好む人が多いかもしれない.なにしろ有名な薬なので“筋弛緩薬の標準”という意味で記載した.

名前:
正規の名前はdトボクラリンだが,“クラーレ”が有名でそのまま使用する.dTcという略語も行き渡っている.この略語は外国でもそのまま通用する.

薬理:
筋弛緩薬としての作用はもちろん強力.
かなり強力な降圧作用があり,ハロセンとの併用で低血圧に悩むことあり.
降圧作用は,ヒスタミン遊離と神経節遮断の両方である.
この降圧作用・節遮断作用のために浅い麻酔での併用に好適.
排泄は肝に30%で残りは腎臓.従って,腎機能障害患者では作用が遷延することがある.絶対の禁忌ではないが覚悟して使うこと.特に肝機能障害があると専ら腎に依存することになるので,遷延の危険が増す.
肝機能障害患者ではdTcがききにくいことがある.
重症筋無力症患者への使用には注意を要する.従来は“避ける”ことになっていたが,最近では積極的に使用して,術後はしっかり人工呼吸を施行し,状態が落着いたらおもむろにウィ−ニングする方法もある.

[蛇足]
クラーレのヒスタミン遊離作用は,投与量ー反応曲線が臨床使用量とぴったり一致している.ただし,異なる点が一つだけある.筋弛緩作用は30分以上有効だが,ヒスタミンによる血圧降下作用は5分で消褪する.したがって,分割投与によってヒスタミンの降圧作用はある程度避けることが可能である.
コナン=ドイルのシャーロック=ホームズに,クラーレの登場する作品が一つある.“サセックスの吸血鬼”という作品で,1924年の発表なので,クラーレの臨床使用の始まる1940年代よりもかなり前である.
クラーレが神経筋接合部に作用することは,1850年ころにベルナールがエレガントな実験で証明してしている.これは作用点をいろいろと検索して,実験的に「神経ではない」「筋肉でもない」ことを証明し,「したがって神経と筋肉の接合部位である」という論理的な帰結によっている.
実験的な明確な証明は1930年ころなのだから,80年も前のことである.天才のおどろくべき能力の証拠.
パンクロニウムやベクロニウムを含めて,非脱分極型筋弛緩薬のすべてを“クラーレ”で代表させてしまうこともないわけではない.

キーワード:ベルナール,コナン=ドイル,シャーロック=ホームズ,その他


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諏訪邦夫

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