筋緊張性ジストロフィ(筋強直性ジストロフィ)
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筋緊張性ジストロフィ(筋強直性ジストロフィ)myotonic dystrophy は,稀な病気ですが,麻酔医の間では非常におそれられているものの一つです.
myotonic dystrophy(myotonia atrophica:Steinert's disease ) Katz: Anesthesia for Uncommon Diseases による:1/31/90 3版を使用して改訂
発症: 20歳から50歳,ゆっくり進行する.死亡は60歳以降.
主訴: myotonia のコンポーネントでなく,顔面・胸鎖乳突筋などの萎縮が主訴.
病態生理: contraction は実は 生理学的には contracture, つまり電気的には収縮は止っている.収縮したものが弛緩しない状態. また,反対の筋肉が弛緩しようとすると,ますます contracture 状態になる. 脊椎麻酔・神経ブロックは無効.クラーレも無効. 局所麻酔薬を筋肉内に浸潤すれば弛緩が起こる. キニーネ,キニジンなどの静注が効果がある. 脱分極性の筋弛緩薬(サクシニルコリン)は contracture を発生する. 神経終板での神経の分岐がとくに多い.これは鳥や蛙に似ており,こういう動物はサクシニルコリンに対して contracture を起こす.
系統疾患としての意義 白内障が高率に出る. 前頭部の禿頭,精巣の萎縮(ホルモンは無関係)
心循環系: 心臓に異常はみられるが,骨格筋ほど強くはない. 心電図異常,不整脈,PRの延長,Pの減少,ST低下または上昇,Tの減少
ブロック: たとえばアダムス=ストークスが知られている.治療にキニジンを使用するのでこの点は重大. 鬱血性心不全が少なくない.死亡例の1/4は鬱血性心不全による.左房圧上昇,心拍出量低下が普通.
呼吸: 肺機能検査異常:VC低下、ERV 低下、MIP&MEPの低下(正常の25%程度)。肺は正常. 呼吸不全:意識障害を伴うことが多いが,原因は患者により異なる.横隔膜の動きの異常も報告されている. 口腔咽頭部の異常:誤飲性肺炎の率が高い.何故か男性に発生率が高い. 一般に肺炎・気管支拡張症などが多いとされているが,おそらく誤飲による.
[麻酔と術後の問題] 心臓と循環系に関しては上記 術後の誤飲性肺炎の頻度が高い 内分泌は問題ないことが多いが,血圧低下が起こればステロイド 麻酔からの覚醒が悪い.呼吸がよわい.呼吸抑制薬が強く作用する.基本的には呼吸の予備力が乏しいことによるらしい. 術後人工呼吸を要することが少なくない. 有名な Kaufman のシリーズ(下記).呼吸抑制の発生した5例の麻酔例中で4例死亡. 筋弛緩は得にくい.神経ブロックも筋弛緩薬も無効. サクシニルコリンは全身の筋肉の contracture を起こす. ネオスティグミンの使用は,contracture を起こすので禁忌とされるが,使用しても大丈夫だったという報告もある. 四肢の手術なら Bier block が適応
参考文献: Kaufman L. Anesthesia in dystrophia myotonica: A review of the hazards of anestehsia. Proc Roy soc Med 53:183-187. 1959. これはすごい論文.25例の筋緊張性ジストロフィの麻酔に対して, 1例はmyotonia発生(あとの検査でMEPは10), 4例は術直後に死亡, 5例が呼吸障害, 残る15例は無事に経過. 5例の呼吸障害の内訳:術後呼吸がでない,ないし低換気.myotonia は起こるが,呼吸筋は硬くはならない.低換気は呼吸筋のコンポーネントが大きいのだろうが,呼吸中枢・呼吸制御系の障害も完全に否定はできない.
4例の術直後死亡の内訳: gastrectomy で麻酔から覚めたのにすぐ死亡. 胆摘後5時間で死亡 腎障害患者が病室に戻ってまもなく痰の喀出ができずに死亡. 帝王切開後8時間で死亡.気道分泌が多くて抑制不能. 検査した患者は(どの患者を検査したのか,はっきりしない),VC,FEV1.0 は比較的正常であったが,MBC(MVV)低下.MIP,MEP がいずれも10から20しかない(正常値は100以上).
Hunter AR. Commenting on paper by Kaufman. Proc Roy soc Med 53:187-188. 1959. 上の論文への追加として載っている.54歳の女性.子宮全摘後呼吸不全.術後4日は人工呼吸.その後,3週間は気管切開を留置(主として誤飲を防ぐため).術後5週間で気管切開チュ−ブ抜去.
12/7/88年:耳鼻科 某 階段昇降不能 頭部挙上不能(ヘッドストラップを置くために「頭を上げて」という要求に「できません」と)この記述が朝のカンファランスに出てきて,“こりゃなんじゃ”というわけで大慌てになりました!
文献: Katz: Anesthesia for Uncommon Diseases 3版からの抜書きなど. 1/31/90 諏訪邦夫
-------------------------------------------------------------------------------- 諏訪邦夫
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