電子版麻酔学教科書

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  小児の喘息を軽視しないで下さい #5
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月10日 13時44分
小児の喘息を軽視しないで下さい

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小児には喘息が多い.所謂「小児喘息」である.その上,反復する他の上気道感染なども「喘息」と表現されることもあるので,病歴の既往症に「喘息」と記載されたり,術前ラウンド時に親が「喘息がある」という場合は少なくない.
本当の喘息患者のまた小さなパ−セントではあるが,麻酔中に強い発作を起すことがありうる.
特に気管内チュ−ブが発作の誘因となるが,他にも麻酔薬や乾燥したガスの吸入・手術の刺激なども原因となりうる.


予測:
予測していれば治療は大抵容易だが,予期せずに麻酔して発作が起ると,「チュ−ブが折れたか」,「麻酔器が壊れたか」とあわててしまう.

治療:
治療はアミノフィリンとイソプロテレノ−ルかアドレナリンの投与.ステロイド・十分な給湿・酸素である.私は,「喘息」ときいた時は,ステロイドは投与することにしている.ステロイドの治療効果発現は時間がかかり,予防効果も知られているからである.

症例
6歳女児 29kg 診断 斜視 予定手術 斜視矯正術 予定時間40分.
2年前より“喘息”という診断で治療を受けていた.発作の回数は1年に数回.
最近では手術の4ヶ月前に強い発作があって,かかりつけの医師の治療を受けている.しかし治療の内容は不明である.
喘息とのことで,手術当日の午前中に改めて診察.しかし,精査するにはあまりに手術が小さいので,詳細は不明のまま強行することにした.

麻酔経過:
前投薬アトロピン .2 mg を導入前40分に筋注.手術室到着時にとくに不安不穏の様子はなかった.
ケタミン3mg/kgを筋注して入眠.手術室に連れていき笑気+ハロセンで麻酔を導入してハロセンを深くしてから点滴を入れた.気化器のダイヤルは3.5%.サクシニルコリン30mgを静脈注射して筋弛緩を得て容易に挿管した.
挿管と同時にバッグが異様に固く,換気が全くできなくなった.EKGはやや徐脈になった程度であったが,脈拍は触れず心音も聞えなくなった.呼吸音は全く聴取不能であった.
イソプロテレノールの準備がしてあったが,心拍が触れないので,むしろ心蘇生の適応と考え,心マッサージを施行しながらアドレナリンを 0.1 mg静脈注射した.頻脈になるとほぼ同時に急激にバッグがやわらかくなって換気が可能になった.
患者はそのまま覚醒し,念のために一晩集中治療室で観察したのちに,退院した.手術は成長してから局所麻酔で施行する方針とした.
この症例は,1970年代のものだが,現在でもケアの仕方はあまり異ならないだろう.


キーワード:気管支痙攣,喘息発作,チュ−ブ,気管内チュ−ブ,乾燥ガス,アミノフィリン


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諏訪邦夫

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