小児に用いる回路
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小児麻酔用の呼吸回路は,歴史的には様々なものが考案され使用もされてきた.現在使用されているのは
通常の循環回路乃至その改造版 ジャクソンリ−ス回路(メイプルソン回路)の二つだけである. 前者は成人用の蛇管を細いものに,バッグを小さいものに交換する.
後者はAyreのT−ピ−スの呼気側にバッグを付けたもので,弁はないか使うとすればオーバーフロー用の弁だけである.200ml/kg程度のガス量を流せば,働きとしては非再呼吸式になる.
後者の方が全体の容量が小さいので,コンプライアンスや抵抗の変化を敏感に感知できる.
筋弛緩薬やハロセン・エンフルレン・セヴォフルレンを用いる現在の麻酔法では,補助呼吸・人工呼吸が必要で,完全な自発呼吸で麻酔を維持することは好ましくないし,実行する人も少ない.回路の抵抗や容量に対する関心の失なわれた最大の理由である.
ジャクソンリ−ス回路とメイプルソン回路の関係 両者は基本的に同じものである.本来は,ジャクソンリ−ス(人名,“ジャクソンリ−ス”という一人の人で,ジャクソンさんとリ−スさんではない)が発表した回路の動作を,メイプルソン氏が詳細に解析して自発呼吸と人工呼吸とでアレンジを変えたりしたものを発表して,一時は使われたので“メイプルソン回路”の名も普及した.メイプルソンーD回路がジャクソンリ−ス回路に等しい.メイプルソンーA回路はガス流入口が手元のバッグに近く,オーバーフローが患者に近い.自発呼吸では,この方が二酸化炭素の再吸入が少ないことが理論的にも臨床的にも証明されている.AとDの双方に自由に組み換えられる装置も売り出された.メイプルソンはウェールズの大学の麻酔科に所属する物理学者.現在では,メイプルソン回路もD以外で使用するのは稀なので,ジャクソンリ−ス回路とほぼ完全に同義である.
蛇足:少し古い麻酔科なら,各種の非再呼吸弁(フィンク弁など)・特製小型循環回路(“ Infant Circle ”)などがどこかに残っているだろう.でも,これを現役で使用しているところは非常に少数に違いない.
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諏訪邦夫
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