電子版麻酔学教科書

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  硬膜外麻酔のやり方と注意 #27
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月09日 22時40分
硬膜外麻酔のやり方と注意

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[準備と使用薬剤]
脊柱の後弯が大切.側弯を起さないように
胸部硬膜外麻酔では傍正中アプロ−チ(paramedian approach )が有用なこともあるから知っておくこと

[滅菌]
滅菌を先にする.“滅菌薬は乾燥する際に効果を発揮する”というのは,昔の滅菌薬では大切だった.乾燥の途中で濃度が上昇して効果が強くなるからと説明されている.現在の滅菌薬は作用がつよいので,この点はさほど重要ではないが,下に述べるように手指につけないという意味もあるので,乾燥してから処置を開始する.
 滅菌薬はすべて神経毒である.手指に滅菌薬をつけて,針やカテーテルを汚すことのないように厳重に注意する.

[施行]
局所麻酔:
正中法では,ひろびろと麻酔する必要はない.
局所麻酔薬は捨てないこと,初心者は何回も使う必要があるかも.
正中線上に,正確に刺入することと, 
矢状面を正確に進むこと
の二点が大切.
組織は硬いか? 組織は柔らかくて,楽に刺入できて楽に進む場合,正中線や矢状面をはずしている可能性もある.靭帯は,独特の硬い抵抗がある.
針の向け方:
弯曲針(Tuohy 針)は,先端が曲っていて,靭帯を切らない向きにすると(斜面を患者の長軸に向けると),矢状面をはずす傾向が強い.靭帯を切ることは望ましくないが,斜面を患者の長軸と直角にして刺入すると,矢状面を進みやすい.
 特に,硬膜外腔に近づいたら回転してカテーテル挿入の方向に向けること.回転は,「切る」作用が強いから,硬膜外腔に入ってから回転すると,くも膜下腔に入る危険がます.



傍正中アプロ−チ:
刺入点は通常の棘間の位置から1.2cm外側,0.5cm下方
椎体に当てて深さを測り,針をもどして角度を変える.
椎体までの距離からプラス2cm程度で硬膜外腔に入るのが普通である.
傍正中アプロ−チをうまくやるには,頭側に向けないで椎体をはずせるような位置に刺入する.

[硬膜外腔の確認]
抵抗消失法loss of resistance だけに頼らないで,いろいろな方法を組み合わせれば,確実性が高くなる!
“抵抗消失:loss of resistance ”
カテーテルを挿入して,10cm位楽に入ることを確認.
もちろん,その後で引き戻す.
硬膜外腔でなくても2〜3cm位は入ることがある.
硬膜外腔でも,神経根に近い側方部だとカテーテルは入りにくい.
報告では,硬膜外腔に挿入したカテーテルが神経根の部位から後腹膜腔に出ていたのを確認したものもある.こんなのは効くはずがない.でも,案外頻度は高いのかもしれない.
局所麻酔薬は針からは注入しない.原則として,カテーテルから注入する.理由は次項([患者が電撃痛を訴えた場合]).
空気の注入は最低限に(もちろん,生理食塩水を使う方がいいが・・)
 空気を大量に注入すると,組織がフワフワになって,抵抗がわかりにくくなる.
 局所麻酔薬を入れてから空気で気泡ができて,局所麻酔薬が作用しない.これは証明されている.
 また,硬膜外腔に入った時に,“やった!”とばかりに元気よく空気を注入すると,患者が激痛を感ずることもある.

[患者が電撃痛を訴えた場合]
 カテーテルを挿入しようとした時,患者が電撃痛を訴えることがある.カテーテルが神経根に当たっているのだから,針の位置やカテーテルの方向を変える.
 針が入った時点で局所麻酔薬を注入すると,カテーテルの刺激による電撃痛が失われ,正中をはずしているサインが一つ失われる.

[針の回転]
硬膜外腔に入っているという自信があるのにカテーテルが進まない場合,針先が正中に向かう方向に回転すると進むこともある.
 たとえば,針先の斜面が上を向いていて,針先が身体の左側に進んでいると思えれば,時計方向に回転する.
 針先が硬膜外腔以外のところにある場合は,いくら回転してももちろんだめ!

[うまく行かない場合の解決法]
手を変える→別の人が行う.
穴布を用いている場合はこれをはずす→外すと全景が見えて施行がやさしくなる.
横臥位をやめて,坐位で施行する→坐位では左右に曲がらず,正中線・矢状面を正確に進みやすくなる.
傍正中アプロ−チがうまくいかない場合,刺入点を上(頭側)に5mm移動する.針の方向を少し尾側に向ける.それでようやく椎体に当る程度にする.
傍正中アプロ−チの失敗は,頭側に向かう角度が強すぎることが多いように思う.大抵の教科書の図や書き方をみてもね.頭側に向かうのでなくて,真横から入っていく位のつもりで成功することもある.

[効かない硬膜外麻酔]
患者の条件がわるい場合ももちろんあるけれど・・・

注意を要する点としては,
カテーテルが側方に向いている
避けるには
刺入を正確に正中を進める
硬膜外腔に入れば必ず効くとは限らない.
カテーテルが,硬膜外腔から神経根のところでとぐろを巻いたり,外にでたりする.
カテーテルをあまり長く入れすぎると,迷入が起りやすい.
カテーテルが入りにくいのに無理にいれると,硬膜外腔でない可能性もある.

注:
弯曲針の綴り:本をみると,Tuohy 針とTouhy 針の二通りがある.真面目に作られている本では前者を採用している場合が多いので,そちらが正しいのだろう.
 推測だが,この名は英米系の人たちにとっても外来の名で,つい綴りを誤ったのではなかろうか.日本でも外国の人の仮名表記がいろいろにできる例がある.たとえば,「モートン」以外に「モルトン」と表記するとか,「マキントッシュ」「マッキントッシュ」の二通りの表記があるなどが例である.

キーワード:正中線,矢状面,傍正中アプロ−チ,穴布,弯曲針(Tuohy 針)


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諏訪邦夫

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 硬膜外麻酔のやり方と注意 - 諏訪邦夫 [#27] 2001/02/09 22:40



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