ブピバカイン(マ−カイン)
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bupivacaine
[化学と薬理] メピバカインの誘導体である.持続は長くリドカインの3倍,メピバカインの2倍である.脂質にとけやすいのみでなく,各種蛋白との結合も強く,心筋などに毒性をもつという意見が有力である.
[投与経路] 各種神経ブロック・硬膜外麻酔・浸潤麻酔の主薬である. 脊椎麻酔にも使われるが,おおやけには認められていない. 粘膜表面には無効.抗不整脈薬としての効果はない.
[投与量] 通常投与量は50mg,量は100mg迄.脊椎麻酔では,一回の使用量は最大で25mgまで.
[作用と効果.副作用] 作用は迅速.持続は4〜6時間程度と長い.アナフィラキシ−様の報告はあるが確実ではない.通常の薬物が持っている発生頻度を上回ることはなさそうである.
[ブピバカインの心血管作用] 他の局所麻酔薬に比較して,ブピバカインは心血管作用が強い. 中枢神経系への作用と心臓作用を比較する指標の一つとして,CC/CNS比というのがある. 循環虚脱に至る血中濃度/痙攣に至る血中濃度の比 ということである.リドカインやメピバカインではこの比は7程度であるが,ブピバカインでは3程度と低値である.つまり痙攣がはじまったら循環虚脱が近いということを意味する. この際の組織の濃度と血液の濃度を比較すると(組織濃度/血液濃度比) 組織濃度/血液濃度比は,リドカインやメピバカインでは2であるが,ブピバカインでは4と高い. ブピバカインはどうやら心筋蛋白との結合が強いので,障害を招きやすいと推論されている.
文献: Morishima et al. Anesthesiology 63:134. 1985.
蛇足: ブピバカインの脊椎麻酔は,日本では認められていない. 理由は,厚生省が頑迷だからでなくて,“新しい用途”として手続きをするに必要な費用が,脊椎麻酔用ブピバカインから上げられると予測できる収入に見合わないから,手続きができないからである. 現在の使用は? 以下は著者の私見だが・・ ブピバカイン脊椎麻酔に,それなりの利点のある事実はたしかである. したがって,こっそり使うことは“道義的には許される”だろう. 現在入手できるブピバカインには保存料が入っており,こちらは神経毒の可能性は完全には否定できない. というわけで,私はなるべく使用しないようにしている. 法律の考え方 ブピバカイン脊椎麻酔で事故が起ったとしても,“認められていない薬物をつかったのだから全面的に敗訴”ということはないだろう. “多数の麻酔医が多数の患者に使っているという事実”は非常に重い.したがって,検察や裁判所はある程度割り引きしてくれるはずではある. “赤信号,みんなで渡ればこわくない”の例だが,それでも車が跳び込んできた時に貰える賠償金は,青信号でわたった場合よりはうんと少なくなる. とはいえ,次のような事実がある.最近(1993年),脊椎麻酔にブピバカインを使用した例で事件がおこり,示談で医療担当者側がかなり高額の賠償金を支払った由である.高額になった理由は,医療側の説明がアナフィラキシーということなのに,保存料であるメチルパラベンはアナフィラキシーを起こす可能性が知られているから,ということである.
[蛇足] ブピバカインの英語の発音は, ビュピバケイン”で,“ビュ”に強いアクセントがある.
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諏訪邦夫
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