窒素の麻酔作用と人類
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窒素には麻酔作用があることが判明確立している.そのMACは30気圧弱である.この値が,窒素の溶解度から予測した麻酔力と実測値がかなり近いことも,吸入麻酔薬の作用がこの理屈で説明できることの傍証になってもいる.したがって,大気圧下で80%窒素を吸入しているわれわれは,0.8/30=0.027MACで麻酔されていることになり,これは2%〜3%の笑気を吸入しているのとほぼ同じ程度の麻酔である.
実際,ヘリウムには麻酔作用がない.実は水の溶解度も脂質溶解度も極端に低くて,中枢神経系に作用がでない.
そのヘリウムを使って,刺激に対する反応時間を指標として測定してみると,空気吸入より,ヘリウム/酸素吸入の方が成績がよい.「ヘリウムなら麻酔されないからだ」というのが説明である.
実際的な意義 窒素の麻酔作用は学術的な興味にとどまらない.海底の作業(石油の発掘など)では,100気圧にもなる.深海の作業では,潜函病の問題と同時に“窒素酔い”つまり窒素の麻酔作用が以前から知られていた.最近のように非常に深いところで作業する場合は,ヘリウム/酸素のような人工空気を使用する必要がある.
文献: Winter PM et al. Anesthesiology 42:658-660. 1975.
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諏訪邦夫
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