笑気の導入には高流量と高濃度が必要
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笑気の導入には高流量と高濃度が必要である.
緩徐導入において,本来麻酔の維持の際に用いる筈の濃度と流量,例えば笑気4L/分,酸素2L/分といった投与法を導入開始時にも素直に使用しているのを見掛ける. しかしながら,滑らかな導入を達成するには,もっと高流量でしかも高濃度で開始することが望ましい. それではこうした投与法の差が,体内での笑気の濃度の立ち上りにどのような差を生むかをみてみよう. 表はいろいろな条件下での濃度変化を,モデルで計算している.麻酔の維持に頻用される4/2をそのまま導入用いた場合は,興奮期(脳の分圧で笑気30%から50%として)の経過時間が3分強を要するのに対し,8/2の導入ではこれが1分半余りと約半分に短縮されてしまう.さらに100%笑気(10L/分)を1分,90%を1分,3分目以降を80%とした場合は,この時間が1分25秒まで短縮できる.高濃度高流量を用いると導入が速くできるのみでなく,興奮期の遷延を避けることが可能なのである.
笑気導入の遅速の差は,単に「速いか遅いか」というだけの差にとどまらない.笑気導入に際しては,大抵の場合に麻酔第二期,いわゆる興奮期を通過するから,これをいかに短時間に通過するかが,導入を滑らかに行うための重要なポイントである.笑気の興奮期に対応する分圧は正確には記載されていないが,エーテル からの類推や臨床観察の結果から,30%〜50%の間が興奮期のレベルであると規定して,この通過に要する時間を導入の遅速,巧拙の目安としている.
表 種々の流量・濃度・肺胞換気量における笑気の導入時間 ガス流量 L/分 ガス濃度 % VA L/分 脳分圧が30% 笑気分圧に達する時刻 脳分圧が50% 笑気分圧を越える時刻 その時間 6 67 4 3'40" 6'51" 3'11" 10 80 4 2'36" 4'15" 1'39" 10 100 4 2'08" 3'15" 1'07" 10 100% 1分 95% 1分 90% 1分 以後80% 4 2'10" 3'22" 1'12" 10 100% 1分 90% 1分 以後 80% 4 2'13" 3'38" 1'25" 50 80 4 1'47" 3'08" 1'21
つまり,流量を10/L/分程度に増し,さらに濃度も80%まで高くすることが導入の加速に有用である.
過換気の場合 ガス流量 L/分 ガス濃度 % VA L/分 脳分圧が30% 笑気分圧に達する時刻 脳分圧が50% 笑気分圧を越える時刻 その時間 10 80 8 2'14" 3'43" 1'29" 50 80 8 1'27" 2'38" 1'11"
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諏訪邦夫
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