妊娠を継続する場合の麻酔と催奇形性
--------------------------------------------------------------------------------
妊娠を継続する状況で麻酔をする必要が起こる.
処置が妊娠と関係する場合もあるし,無関係の場合もある.いずれにせよ,催奇形性の問題に考慮を払わねばならない.
すべての薬物は“催奇形性が否定できていない”.麻酔薬も催奇形性が否定できていない.特に全身麻酔薬の場合は,単に“催奇形性が否定できない”だけに止まらず,“催奇形性がありそう”と考える根拠がある(下記).したがって妊娠を継続する場合の麻酔としては,催奇形性の低い薬物と方法を選んで組み合わせる.
薬物の催奇形性は,作用が特に強力なものや判明しているもの以外は,一般には薬物のモル濃度に依存する.したがって,奇形を避ける意味では子宮・胎盤の濃度の低い麻酔法を選ぶのが最良である.
吸入麻酔・静脈麻酔・硬膜外麻酔・脊椎麻酔の4者で子宮・胎盤の薬物濃度を比較する.
吸入麻酔:大体1mM/L程度である. 静脈麻酔:バルビツレートとプロポフォルで0.1mM/L, ディアゼパムやモルフィンで0.01mM/L程度 フェンタニルで0.1〜1μM/L程度 硬膜外麻酔:0.01mM/L程度 脊椎麻酔 :0.1μM/L以下
フェンタニルは単独では麻酔ができないから,薬物濃度の点では脊椎麻酔が断然低値である.催奇形の点からみれば,脊椎麻酔が圧倒的に有利と考えられる.
麻酔一般には,硬膜外麻酔と脊椎麻酔の差はあまり重大とは考えられないが,薬物量の点では大きな差があるので,この問題に対しては硬膜外麻酔でなくて脊椎麻酔を選ぶべきである.脊椎麻酔の優位性は絶対である.
FDAの基準 催奇形性についてはFDAが薬物のランクを決めているという.原物にはあたれなかったが,引用文献によれば,いくつかの特徴がある.
胎盤に入らないことのわかっている薬物は安全. 例:すべての筋弛緩薬 胎盤通過性の低い薬物は比較的安全.例:すべての局所麻酔薬 安全度の高い常用薬の例: アトロピン エフェドリン リドカイン 安全度の高くない常用薬の例: モルフィンとフェンタニル ドーパミン フロセマイド(ラシックス) この表がどのようにして決定されたのかは不明なので,あまり明確なことはいえない.
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |