盲目経鼻挿管
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ファイバー喉頭鏡による挿管が確立普及してきた今日,盲目経鼻挿管の適応は限定されてきている.それでもまったくなくなったとはいえないだろう.“ファイバーを持ち出すほどではないけれど,できれば喉頭鏡を使用しないで”という程度のものはいろいろとある.
練習: 盲目経鼻挿管を練習するためには,経鼻挿管の必要な症例で練習する.私は“5分間”と時間を限って研修医に練習を許している.つまり,“盲目”経鼻挿管の必要ない経鼻挿管症例でも,5分間だけは盲目挿管を試みさせる.
ポイント: 枕を高くしていわゆる“ Sniffing Position ”にする.鼻からの気管内チュ−ブと喉頭が一直線になるような体位. EKGはもちろん,パルスオキシメーターなどのモニタ−をつける. 呼吸音を聴いて施行するのはダメ.麻酔が覚めてしまう. 回路をつないで,麻酔を覚まさないように,しかも高濃度酸素を与えながら安全に施行する. これならば,成功するまで1時間でも頑張れる.(本当に必要で,ファイバーを使えない場合). 回路をつないで,麻酔のバッグの動きを見ながら施行する.患者の呼吸運動はあるのにバッグが動かなくなれば,気管内チュ−ブが違うところに進んでいる. 気管内チュ−ブの種類は何でもいい.スタイレット内蔵の気管内チュ−ブ(エンドトロール:引っ張ると弯曲が強くなる形のもの)は,やや成功率が高いようである.
手順: マスクの吸入麻酔で深く全身麻酔する.以前は笑気/ハロセンだったが,現在はセヴォフルレンがやりやすい. 麻酔がしっかりかかったら,笑気を下げる.50%以下.セヴォフルレン/酸素でもいい. バッグが呼吸で動くのを確認しながら,気管内チュ−ブを少しずつ進めていく.胸腹の呼吸運動はあるのにバッグが動かなくなれば,気管内チュ−ブがどこかにぶつかっているか,食道に入ってしまったのだから,少し引き戻して方向をかえて再び試みる. 何回も試みるうちに,助手の人が頚にさわると気管内チュ−ブが横に進んでいるのがわかることがある.そうしたら,それを施行者に教えたり,助手が喉頭をずらせたりすると入ることもある. 入らない場合は,大抵は後に向かっている.内蔵のスタイレットがここで有用. 声門を通過して呼吸はしているのに,気管内チュ−ブが進まないことがある.気管内チュ−ブが気管前壁につっかえているのである.この場合は頚を少し前屈すれば気管内チュ−ブは進んでくれる. 鼻の孔は可能なら左の孔がいいことは,経鼻挿管の項目で説明
確認: 長さは経口+3cm カフを膨らませて,それが頚部でふれるかどうか もちろん,呼吸の動きとバッグの動きが一番大切 麻酔が浅ければ,挿管とともに強い咳をする.これも重要なサインである.
練習: 盲目経鼻挿管は練習しておかないと本当に必要な時に役に立たない.上記のように5分間練習を勧める. そうして,だめだった時に喉頭鏡をかけてみて,どうだめだったのかを納得すると,大変に勉強になる.
蛇足: 盲目挿管の技術がこれからの麻酔医にどの位身について保持されるかは疑問も大きいだろう.エーテル麻酔とくにオープンドロップのできる人がほとんどなくなったように,盲目挿管の技術も消えてなくなるものの一つかもしれない.
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諏訪邦夫
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