ファイバー挿管のコツ
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挿管のむずかしい症例を中心にファイバー挿管を行うようになってきた. 何事も技術には修練が必要であるが,同時にある種のコツが要求される. ポイントといってもいい.それを2,3述べる. まず練習が必要である.
In vitro の練習 ファイバーの視野は直視とはかなり異なる.何よりも覗いてみて,直達鏡とどのように異なるかを実感しておくこと. 先端に屈曲を与える際の方向と角度も,どう動かせば視野がどう変わるのか,どの位変わるのかを練習しておく.
In vivo の練習 ファイバーの必要な状況だけを対象にしていては,ファイバーを修練する場面が不足である.そこでファイバーが必要でない場合でもファイバーを使ってみる.具体的には,マスクで深く麻酔しておいてファイバー挿管を試みるのである.考え方は盲目挿管のトレーニングと同じで,5分〜10分程度としておく.一寸慣れれば,5分もかからなくなるだろう.
何がむづかしいか ファイバー挿管のむずかしいところは三つある. 1)声門が視えるか そもそもとんでもない方向を探してしまうことも稀でない. 2)見えた声門に気管内チュ−ブを入れられるか 気管内チュ−ブが声門に触ると咳が出て位置がずれる 3)入った気管内チュ−ブを,先へ進められるか 経鼻挿管一般の困難と同じである 以上の三点を克服せねばならない.
声門をうまく視るには 1)いきなりファイバーをでたらめに進めてしまわないこと 食道に入っていれば,探しても見つからない. 2)経鼻チュ−ブを咽頭まで入れておいて,その中を通した方が,先端が汚れにくい. いつでも可能でもないけれど. 3)12cm程度で後鼻孔から咽頭にでる.この点を確認する. まず喉頭全景を探す. 喉頭蓋がみえたら声門は近い. この時点で,介助者が患者の舌をガーゼでつかんで牽引すると,声門がみえやすい. 声帯そのものは15cm位でみえてくる.
見えた声門に気管内チュ−ブを入れるには 麻酔なしにはむずかしい. 局所麻酔を充分に反復する. 挿管を試みる“前に”,フェンタニルを追加する. 失敗してから追加するのではない. 自信があればここで筋弛緩薬を使用することも可能 生検鉗子を使用するやり方については後述
入った気管内チュ−ブを先へ進めるには 気管内チュ−ブの方向と気管の方向が異なる. 先端が通過したら頚の形をそれまでのやや後屈から,逆にやや前屈にする. 同時に,頚を少し前にだす.いわゆる“sniffing position”にする.
問題点 梨状陥凹は声門のようにみえることもある.動いてもいる. 慣れないと,ここへ挿入しようとする場合がある.
直達鏡とファイバーの比較 ファイバー挿管は,喉頭鏡による挿管よりも循環動態の変化が少ない. 機械的な刺激が軽度だから当然である.それを理由にしてファイバーを使う場面もしだいに増えるだろう.
みんなでみえるファイバー:ビディオカメラの利用 最近,ファイバーに小型ビディオカメラをつけて,CRTスクリーンに映像を出して,それをみながら施行することが可能になってきた.指導者や他のトレイニーがモニタ−きるので,安価で有用な装置である.
生検鉗子をガイドにする. 喉頭専用のものでは無理だが,気管支鏡用のファイバーなら生検鉗子を挿入できる.ファイバーの本体に比較すると,こちらは直径が1mm程度と非常に細い.これをまず気管に挿入してからそれをガイドにファイバーを使用する方法も報告されている. ただし,筆者自身は経験がない. 生検鉗子は,6mm程度のやや太いファイバーなら組み込みが可能である.
蛇足:1985年ころのことであろうか.沖縄県立中部病院呼吸器科の宮城征四郎先生から「われわれ内科医は,喉頭鏡を使用した挿管に熟達することは不可能なので,挿管が必要ならファイバーを使用することにした.ファイバーなら毎日使っているから技術を保ちやすいからである」という意見を伺った.卓見だと思ったものである. ところで何年かたったある学会で,同じ病院の麻酔の先生が「ファイバー挿管がうまくできないで,呼吸器科の先生に依頼することもある」というのを聴いて,さらに面白く思った.(国吉他,臨床麻酔学会1992年).
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諏訪邦夫
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