あわてる危険
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麻酔医の危険はいろいろあるが,“周囲や状況からせかされて”というのが,重大なトラブルの一つではなかろうか.
いそぐ状況・せかされる状況
交通渋滞に巻き込まれて病院到着がおくれてゥ 前の手術が長引いてゥ ちょっとの暇に,病棟で(外来で)患者を診なくてはならなかったのでゥ 病室から(救急部から)医師が何人もついてきて,あわてて手術しようとしているのでゥ 呼ばれていってみたら,血だらけの患者がストレッチャーにねている 呼ばれていってみたら,患者の脈がふれない 外科医が忙しい.飛行機に乗り遅れそうだ 大教授到着が近いのに,患者が手術室にきていない そういう時でも, “建て前”:本来やるべきことを全部きちんとチェックして仕事にかかる “実際には”:チェックのステップ省略を余儀なくされることも多い. 建て前をはずしても,いままで無事過ごしてきた面もあるのは事実である. でも,チェックをおこたって,患者の重要な疾患を聞き落したり,麻酔器や人工呼吸器の重要な欠陥に気付かないままスタートしてしまったり,というのも起ることである.
後悔するのは 基本的には,両者の間にある程度の妥協は必要であるが,しかし「後悔する」という点からいえば,人を待たせ念入りにチェックして後悔するよりも,省略したことで結果的に「後悔する」頻度が断然高い. 慌てさせられそうな状況になったら,それに気付いて「落ち着け」と言い聞かせて落ち着くように努力するのが一番の正攻法.
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諏訪邦夫
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