酒飲みは麻酔がかかりにくいか
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[作用と効果] 「酒飲みは麻酔がかからない」というのは誤りである.酒好きだから手術のときに麻酔がかからなくて困ることはない.ハロセンも,エンフルレンもアイソフルレンも,酒飲みでも有効である.
では,「酒飲みは麻酔が“かかりにくい”」,「酒飲みは麻酔薬を“余分に”必要とする」という質問はどうだろうか?
吸入麻酔薬作用に関して 有名なポール=ベアの研究(19世紀末)で,1.5気圧の笑気で麻酔がかからなかったことが述べられているという. 下って,1960年代から,MACが麻酔力の基準として使用されるようになって,これを支持する結果(下の Han の論文)と否定する結果(Eger の教科書に引用された Munson の未発表データ)があって,明確な解答は得られていない.
静脈麻酔薬に関して 静脈麻酔薬に関しては,経験的には酒飲みは耐性が大きいようであるが,科学的な分析はない.
酒飲みは逆に麻酔に弱い面もある.酒飲みは肝臓をやられていて,薬を処理する能力が低い.手術そのものが肝臓と重要な関係がある.肝障害患者は手術で出血しやすく,術後は傷が治りにくく,肺炎などの合併症が起こりやすい“はず”である. [文献] Han YH. Why do chronic alcoholics require more anesthesia? Anesthesiology 30:341-342. 1969.
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諏訪邦夫
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