いろいろな吸入麻酔薬
--------------------------------------------------------------------------------
1962年〜1966年というのは,麻酔医療の歴史でみても吸入麻酔薬の種類が極端に多かった時代です.このわずか4年の間に下のものをすべて自分で使用しました.一つは,東大という特殊な施設に所属していた点も大きな要因ですが.
笑気:これは現在も使用. エーテル: 1963年当時のMGHの標準の麻酔薬.MGHでは閉鎖式ですべての手術に. 東大でもよく使っていたが,こちらは笑気/エーテル法で,自発呼吸を維持する手術に. ハロセン: 脳神経外科を中心に.高価だったのと,気化器が不足でとりあった. MGHでは特殊な症例のみに使用. フルロキセン:一寸テストだけ(東大).MGHにはなし. メトキシフルレン: 1963年頃に東大でテスト.MGHにはなし. 1965年に,ニューヘブンのエール大学で産科麻酔に少し使用. 1966年に,腎毒性の論文が出て,使わなくなった. トリクロロエチレン: MGHにはイギリスの人が多くて,好んで脳神経外科の手術に使った. 東大には,これを入れて空気で麻酔するマスクがあって,X線室の麻酔に使ったことがある. クロロフォーム: 一寸いたずらに東大で使用. 参照:クロロフォルムのオープンドロップ ヴァイネセン(ジビニールエーテル): MGHで,エーテルのオープンドロップ時の導入に使用.
エチルクロライド: 子供の麻酔の導入に東大で使用. 特に,サイクロプロペンがない際や,オープンドロップのスタートに. サイクロプロペン: 東大では「ショック患者の麻酔維持に」,
それに,小児の導入に. MGHではルーチンに.エーテルで深く麻酔して,サイクロプロペンに切り換えて 筋弛緩をエーテルで得て,サイクロプロペンで呼吸を止めて,いい麻酔として推奨. フィラデルフィア小児病院では,サイクロプロペンで開始して,エーテルを加える のがルーチンのやり方だった. ハロセンでスタートするやり方を私が導入して,バックマン氏(チーフ)は嫌ったが ダウンズ氏(その後,小児麻酔領域で名を挙げた人)は,自分の目で判定するのが好きで「これもなかなかいい」という評価で,私は満足した. 1965年当時は,小児は吸入麻酔導入が標準的だった. 少なくとも,東部ではそうだった. エチレン: MGHの一部の麻酔器で使用可能.数例の使用しただけ. 以上,笑気を含めて11種類です.実に多彩です.
アゼオトロープ エーテルを2量にハロセンを1量まぜると共沸混合物ができる.「アゼオトロープ」(共沸混合体の意味)と称して一部の人が使った.私も東大で数例使った. エーテルの含有量が少ないので,可燃性がないとか,呼吸を刺激してくれるので,ハロセンよりは自発呼吸で維持しやすいとかいう特徴が触れこみだが,結局どれもさしたる利点ではなかったのだろう.
この他に,ヴァイネマー(エチルビニルエーテル)というのもあったが,これは自分では使ったことはない.
この後使用したものといえば,エンフルレン・イソフルレン・セヴォフルレンの三種類のみですから,この短期間に10種類を越える吸入麻酔薬というのがいかに数多かったかがわかります.
当時すでにゼノンの麻酔作用も判明しているが,私自身は使う機会がなかった. --------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |