見事な手術:1)ヘンドレン氏
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私は,自分で身体を動かすことも好きですが,スポーツを観るのも好きです.そうして,上手な手術をみるのも見事なスポーツや芸術のパフォーマンスを観るのと同じように感じています.その意味で,印象に残っている手術や術者のことを少し.
ハーディ・ヘンドレン氏は,1997年の時点でボストン小児病院の外科主任ですが,私がMGHでレジデントのトレーニングを受けた1963〜66年の時点で,すでに著名な外科医でした.本当に上手で,手術が美しいという印象を受けました.
最初に仰天したのは心臓カテーテル室で,専門家ができないで彼を呼んで細い血管に見事に挿入しました.それも,ちっともむずかしい感じではなくて何なくやってしまいました.自分でも,上手なことを十分に意識していた印象を受けましたが,本当に上手だと感じましたから,それもおかしくありません.
当時は,一寸意地悪だったり,いたずらしたり,傍若無人に夜おそくまで平気で手術をつづけたりするので,嫌う人もよくいて,名前をもじって“hardly human "(“とうてい人間とはいえない”)などという陰口もありました.「ワイフと仲が悪くて,家に帰りたくないから,いつまでも働いている」というジョーク(それ自体は,働き好きの人に対して使うジョークです)の対象にもなっていました.
しかし,何しろ手術はうまいのです.そうして,周囲をどなりつけたりはしますが,手術そのものは絶対に混乱しません.そうして見事な手際です.
私は,レジデント時代も割合にいい関係でしたが,でもときどきいたずらをされました.胸壁聴診器を手術器具で叩いて,ウルサイと怒るのを面白がったりするのです.楽しかったのは,1968年の夏に1月間だけMGHで働いた時で,レジデントと一緒に小児麻酔専属だったので,もっぱら彼とつき合いました.そのころになると,私のことを信用していた故もあったでしょうが,いつもなごやかで楽しく手術を眺めました.
現在は,大変な巨人ということのようです.私はお会いしていません.多分記憶に残して下さっているとは思いますが,それもわかりません.
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諏訪邦夫
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