電子版麻酔学教科書

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  間違いやすい英語の発音:麻酔学関係を中心に #6
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 22時19分
間違いやすい英語の発音:麻酔学関係を中心に

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英語の発音はむずかしいものです.

ルールが明確でなく,母音の数が多く,複合母音が多いことなどがトラブルの元です.むずかしいだけでなくて,“不安定”です.たとえば,ちょっと洒落れた印象を与えることを狙って,人とは違うように発音するということがあります.それが定着したりもします.

この点,ドイツ語は発音が明快なだけでなく,ルールがはっきりしていて,しかも安定しています.

もっとも,外国人には日本語の発音もむずかしいでしょう.

麻酔学に関係した英語で,間違いやすいもの,名前や発音に注意しないと,英語としては通用しないもののリストをつくりました.主として本書から採用しました.原則としてアメリカ式で,イギリス式では異なるものもあります.アメリカでも土地により人により差があるのはもちろんです.

発表や会話での注意
英語自体はなかなか上手なのに,大切な薬品名や測定方法名を誤っていたり,発音がわるいので理解して貰えないことがあります.私自身も経験があります.そういうトラブルが少しでも避けられればという意図で,このリストを作成しました.

是非口にだして発音してみて,英語式の発音をためして下さい.“キザ”“バタ臭い”感じで気にいらないかもしれません.でも英語で発表する時はもちろんのこと,英語の講演を聴くにも慣れておいた方が有利です.

発音は,口にだして慣れておかないと身につきません.カラオケを歌うためには口に出して練習しなくてはだめで,ただ聴いていたのでは練習になりませんね.言葉の練習も同じです.一回でも2回でもいいですから,発音してみましょう.



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薬品名

英語名と日本名が異なるので,日本の商品名では通じにくいもの

欧米では一般名を使用する頻度が日本よりは高いが,個々の薬物では必ずしもそうでもない.
  一般名 日本での商品名 アメリカ商品名
慣用名
麻酔薬 エンフルレン エトレン エースレン
サイオペンタル ラボナール ペントサル
フェンタニル フェンタネスト  
ディアゼパム セルシン ヴァリウム
ミダゾラム ドルミカム ヴァーシド
フェンタニル+ト゛ロヘ゜リト゛ル タラモナール イノヴァー
筋弛緩薬 サクシニルコリン サクシン アネクチン
スコリン
パンクロニウム ミオブロック パヴュロン
ヴェクロニウム マスキュラックス ノーキュロン
その他 ドーパミン イノバン,カタボン  
アイソプロテレノル プロタノール アイスプレル
アドレナリン ボスミン エピネフリン
ディルティアゼム ヘルベッサー カードゼム
フルマゼニル アネキセート マジコン



商品名が日本とアメリカと類似しているものはもちろん多い.
     アイソフルレン フォーレン フォーレン
ドブタミン ドブトレックス ドビュトレクス
ハロセン フルオセン フルオセン



英語式発音に注意を要するもの

アクセントの位置が日本式ではまずいもの:英語の単語はアクセントをつよくいい,あとはぐちゃぐちゃとごまかすように発音する傾向がつよい言語だと感じます.アクセントを思い切って強く読むと“英語らしく”なります.
またそうした発音に慣れておくと,英米人の発音が聴き取りやすいでしょう.
日本語仮名表示 アクセントの位置
フェンタニル フェ
ミダゾラム ダ(マイダゾラムという発音もある)
サイオペンタル ペ
ディアゼパム ゼ(ズィーという感じに強く)
バービチュレート ビ
プロポフォル ロ
パンクロニウム ロ(ロウという感じに強く)
ベクロニウム ロ(ロウという感じに強く)
アトラキューリアム アとキュの二箇所
サクシニルコリン サとコの二箇所(コウという感じに強く)
エドロフォニウム フォ(フォウと強く)
カテコールアミン カとミの二箇所
ドーパミン ド(ドウという感じに強く)
アイソプロテレノール テ
アドレナリン レ
エフェドリン フェ
ネオシネフリン ネ
プロプラノロル ラ
ベラパミル ラ
アトロピン ア
レイスィクス(彈・j レ(レイと強く)
ハイポキシア ポ
プログラム ロ(ロウという感じに強く)
アニュリズム ア
カルシウム カ
ソディアム ソ(ソウという感じに強く)
ポタシアム タ
クロライド ロ(ロウという感じに強く)



同じ単語,類似の単語で,発音やアクセントの異なるもの
パルスオキシメーター オ 同じ単語でふた通りの発音があり,
パルスオギジメタ ジ アクセントの位置が異なる.
アシド シス ド(ドウという感じに強く)
アルカローシス ル



こういう風に似た単語でアクセントが異なるのは始末が悪い.
カプノグラフィ    ノ 似たような単語でアクセントと発音が異なる
キャプノグラム キャ:語頭にアクセントがつくと母音もつよい
レスピラトリ レ
レスパイラトリ パイ



読みが異なるもの
日本の読みはドイツ語式,ローマ字式で,“英語としては”まったく通用しない可能性も高いことを認識して下さい.音はそのままでも,アクセントの位置が英語式になるだけで,ずっとよく通じるようになる場合も多いでしょう.
日本式 英語式
イソフルレン アイソフルレン
チオペンタール サイオペンタル
フェンタニール フェンタニル
プロポフォール プロポフォル
キシロカイン ザイロケイン
リドカイン ライドケイン
ヌペルカイン ニュパケイン
カルボカイン カーボケイン
ブピバカイン ビュピヴァケイン
コカイン コウケイン
(局所麻酔薬の語尾は,原則として“ケイン”“ケン”という弱い音です)
ラシックス レイスィクス
パンクロニウム パンキュロウニアム
ベクロニウム ヴェキュロウニアム
アトラクリウム アトラキューリアム
コリンエステラーゼ コリンエステレース
キセノン ゼノン(ズィーノン)
モルフィン,モルヒネ モーフィン
ヘルニア ハーニア
バルビツレート バービチュレット
ソジウム ソウディアム
カリウム ポタシアム
ポタシウム ポタシアム
ニトログリセリン ナイトログリセリン



身体の部分の名前や病気の名前

ZY の音 zygoma (ほほ骨) ザイゴーマ

Gの音:日本式では“ガ行”の音にすることが多いが,英語では“ザ行”または“ダ行”の音になることも多い.
esophagas は“エソファガス”だが
esophageal は“エソフェイジアル”か“エソファジール”
  前者はフェに,後者はソにアクセント
angina は“アンジナ”か“アンジャイナ”
trigeminal は“トライジェミナル”
laryngoscope  は“ラリンごスコープ”だが
laryngeal は“ラリンジアル”.
“ラリンジール”という発音はない
もちろん“ラリンゲアル”という発音もない
digoxin は“ディジョキシン”
Ringer は“リンジャー”:イギリスの研究者.
輸液の名前としても,“リンジャー”



“eu”の綴りがドイツ語の“オイ”から英語では“ユー”となるもの aneurysm アニュリズム
neuron ニューロン
neuralgia ニューラルジア:ノイラルギアだと2重の誤りです.
母音の後の“r”は単純に長音になるもの.“r”の音を響かせない.
carcinoma カーシノーマ
barbiturate  バービチュレット


Cの音:日本式では“カ行”“タ行”の音にすることが多いが,英語では“サ行”の音になることも多い.
carcinoma カーシノーマであって“カルチノーマ”ではない
cholecystectomy コレシステクトミ
慣れているから不思議におもわないけれど,考えてみるとおかしな組み合せの発音ですね.
acidosis アシドーシス.これはアチドーシスという発音は稀ですか?
でも,ある学会用語の仮名表記は“アチドーシス”です.


清音と濁音
oxy- & oxi は“オキシ”だけでなくて“オギジ”“オグジ”と濁ることも多い
pulse oximeter “パルスオキシメーター”という発音もあり,“パルスオギジメタ”という発音もある.後者は,後の母音が短くなる.



oとaが逆の発音になる例
stomach スタマクですね


英語の発音の不安定な例:すでに出したものもあるけれど
ミダゾラムがマイダゾラムという発音になることは,前述
“torr”の発音は“トル”と“トア”とふた通りある.
respiratory も“レスピラトリ”と“レスパイラトリ”の二種あり
しかも前者はレにアクセント,後者はパにアクセント
pulse oximeter “パルスオキシメーター”と“パルスオギジメタ”の2種の発音.



人名でも Buchanun はブキャナンとバックナンの2種類
Michelson   はミケルソンとマイケルソンの2種類

ブキャナンやミケルソンは原語に近く,アメリカに移住してまだ時が経っていないことを表している由.もっとも,古くても名家として確立してしまうとかわらなくなる.
(同じ字で読みの異なる例は,日本語にもありますね.私の友人・同僚には “角田”が“スミタ”“ツノダ”“カクタ”の3人います)


学会用語や局方名に注意
学会用語も局方名も,原語に近い読みを採用してはいません.
“原語に近い言葉で発音する”という観点からは疑問もあります.規定はまもらなくてはなりませんが,英語環境ではご注意下さい.
“日本麻酔学会用語でこうなっているから”とか“局方名がこうなっているから”といっても,外国の人は対応してくれるわけではありません.
注:この項目は,筆者の著書「発表の技法」(講談社ブルーバックス)に載せたものに手を入れて,掲載しています.



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諏訪邦夫

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 間違いやすい英語の発音:麻酔学関係を中心に - 諏訪邦夫 [#6] 2001/02/11 22:19



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