電子版麻酔学教科書

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  麻酔のマーフィの法則 #5
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 22時18分
麻酔のマーフィの法則

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マーフィの法則を麻酔の領域で作りました.基本法則は,"If anything can go wrong, it will."
(「まずく行く可能性のあることは,必ずまずく行く!」)という悲観論の極致の表現です.

もっとも,ここに載せたものは純粋のマーフィの法則だけでなくて,単なる警句・皮肉のものも含めています.

研究・学会・スライド・論文など面白い領域ですが,麻酔と限らないのでまた別の機会に.

術前回診で苦しむ法則

術前回診の患者は,外出中か入浴中である.
病歴はみるものではない.探すものである.
麻酔コンサルトに答える内科医の辞書に,「全麻不可能」の文字はない.
術前検査は必ず一つ不足している.
術前準備を十分すると,手術は中止になる.
麻酔法とモニター選択の法則

動脈にカテーテルを入れるのは動脈にカテーテルを入れたいからである.必要だからではない.
全身麻酔に硬膜外麻酔を併用するのは硬膜外麻酔を入れたいからである.必要だからではない.
CVPカテーテルを入れるのはCVPカテーテルを入れたいからである.必要だからではない.
スワン・ガンスカテーテルを入れるのもスワン・ガンスカテーテルを入れたいからである.必要だからではない.
要するに,医師がやることは医師がやりたいのである.必要だからではない.
系:以上の法則は病院や患者の経済を常に無視する大学病院の医師に当てはまる.
医師がやることは医師が儲かるからやるのもある.いずれにせよ,必要だからではない.
手術室で苦しむ法則

やさしいと思った点滴は失敗する.
むずかしいと思った点滴は必ず失敗する.
朝一番の点滴に失敗すると,その日はつぎつぎ失敗する.
点滴を一度失敗すると,もう一度失敗する.
点滴の失敗回数は持った針の数に一致する.
系:兼好法師は正しい.(“初心の人,二つの矢をたばさむことなかれ.後の矢を頼みて初めの矢になおざりの心あり−−”:徒然草:第92段)
点滴は入らないのに,硬膜外麻酔のカテーテルは静脈に入る.
動脈カテ挿入に一度失敗すると,最終的に成功する可能性は限りなくゼロに近い.
狙うと入らない動脈も,狙わない頚動脈や鎖骨下動脈なら入る.
朝食を抜くと昼食の交代がこない.
二日酔いの日は必ず忙しい.
手術は常に「あと2時間で終わる」予定である.
再開腹の法則ともう一針の法則

再開腹が決まるのは,筋弛緩薬のリバース直後である.
系:麻酔の覚醒は手術終了より常に2分早すぎる.
患者の眼が醒めると術者はもう一針縫いたくなる.
研修医と指導者の法則

研修医は,1ヶ月目は謙虚であり,3ヶ月目は自信満々であり,9ヶ月目は退屈している.
「指導が悪くて」と苦情をいう研修医ほど麻酔が下手である.
「研修医が下手で」と苦情をいう指導者ほど指導が下手である.
大学病院の医師は2種類ある.トレーニングを受ける医師と,トレーニングを授ける医師である.トレーニングを終了した医師の診療を受ける方法はない.
指導医が退屈していたら麻酔は良好である.
指導医試験の硬膜外はくも膜下に入る.
麻酔医が経験を積むほど,患者は軽症になる.経験が最大になると,診療担当はゼロになる.すなわち,麻酔医は患者が軽症なほど収入が増す.
緊急手術の法則

緊急手術は,術者が暇な時に発生する.
「今日は,Jリーグも巨人戦もゴルフもないなあ.手術でもするかあ.」
準備万全で待っている緊急手術は中止になる.
ナースの法則

ナースが麻酔医に期待するのは頭脳でも知識でもない.筋力である.
「先生,ベッド動かすから一寸手伝って」
「先生,このビンの蓋が開かないんだけれど」
・当直ナースは,麻酔医に浅い睡眠を期待する.
「先生,何回電話したと思うんですか.いい加減で目を覚まして下さいよ」
美人のナースはマスクで顔を隠している.
系:逆は成立しない.マスクで顔を隠しているから必ず美人とは限らない.
ナースの正義の法則
ナースと麻酔医の口論はナースが勝利する.
ナースはつねに正しい.ナースは替りがいないが医師は替りがいるから.
ナースの豊かな旅行の法則

旅行先を決めるのは,ナースでは自分の希望であり,医師では教授の意向である.
ナースとボールペンの法則

ナースの重要な役割は医師にボールペンを貸すことである.
系:貸したボールペンが返えってくることは稀である.
系:医師の役割はナースからボールペンを借りることである.
系:ボールペンを返却する時にお礼の品をそえてもよい.
薬の法則

どれだけ多種類の薬を準備しても,準備不足の薬が必ず一つある.
好きな薬は販売中止になる.
薬は特許が切れると効果も切れる.
教授の年齢の法則

“昔はこうだった”と言う教授は,急速に年をとっている.
“昔はこうだった”とは言わない教授は,いつまでも幼稚である.
やさしい教授の法則

教授がやさしくなったら,体力低下を自覚している.
教授がやさしくならなかったら,能力低下の自覚を欠いている.
教室員のやる気の法則

自分で何でもしようとする教授の部下は何もしない.
自分では何もしようとしない教授の部下も何もしない.
教授の知識の3法則

教授は何でも知っていると自分では思っている.
教授は何も知らないと教室員は思っている.
教授は教室員よりも少し余分に知っていると神様が知っている.
モニターの法則

患者が重態の時,見るのは患者ではなくモニターである.
どんなに使いやすいモニターも,使わない人が必ずいる.
モニターには2種類ある.壊れて使えない装置と,壊れていないが誰も使わない装置である.つまり,モニター装置が有効に使われることはない.
モニターをつけるとそのパラメーターは安定する.したがって,モニター装置には治療効果がある.
モニターを何もつけなければ,すべてのパラメーターは安定する.
使いにくいモニターも,推薦者が必ずいる.
使えそうもないモニターほど,学会発表が多い.
優れたモニターは反対者が多い.
モニターの論文を書いた人は,そのモニターを使わない.
モニターを欲しがらない麻酔医は,自分はうまいと思っている.
モニターを欲しがる麻酔医は,自分だけはうまいが,と思っている.
モニターにお金を払うのは発表した人ではなく,発表を聴いた人である.
最後にマーフィの法則の究めつけを:

マーフィの法則は読むものではなく,自分で作って遊ぶものである.

注:
これは諏訪が中心になって発行している抄録雑誌 Anesthesia Antenna 11号(1994年7月発行)に掲載したものの転載です.


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諏訪邦夫

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