電子版麻酔学教科書

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  麻酔学の楽しさ−麻酔は人体の生理学と薬理学 #16
投稿者  諏訪邦夫
URL  
投稿日時  2001年02月11日 22時28分
麻酔学の楽しさ−麻酔は人体の生理学と薬理学

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帝京大学市原病院麻酔科 諏訪邦夫
この項目は,ある医科大学の麻酔学最後の講義で,“卒業試験を楽しく準備するために”というつもりで話したものです.内容は自著

諏訪邦夫:麻酔の科学 講談社(勿抂舗・,東京.1989. Pp.1-215
からとったものです.ただし,本のほうは一般向きですが,こちらは医学生向きに少し手を入れて直してあります.

みんなで遊ぼう,麻酔学!?


何故吸入麻酔を使うか −−−  薬効消失速度の制限要因
希ガス    −−−−−−−  そのいろいろと使われ方
薬の量と特異性   −−−−  fMで効く物質とmMも必要な物質
体内時計と睡眠と麻酔  −−  目がさめて時間の経過がわかるかどうか
笑気で飛行機ごと麻酔できるか− 量と作用の問題
ベルナールの実験  −−−− 君はベルナールと同じ天才か

舌根の沈下とは   −−−− SASと麻酔は同じか違うか
酸素解離曲線    −−−− 実際的な意味のある例
ゲンゴロウ     −−−− 特殊な“肺”
キリンの気管と呼吸機能 −− 細ければ抵抗,太ければ死腔
人工呼吸各種   −−−−− 陰圧開胸,鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸
白身の魚と赤身の魚  −−− 色と活動性
山の上や飛行機の酒  −−− 効きやすいというが本当? メカニズムは?
表面張力の関係する現象 −− 新生児呼吸窮迫症

パルスオキシメ−タ  −−− 原理
炭酸ガス測定とMCR  −− 自然と人間の工夫の一致

麻酔と犯罪     −−−− 吸入麻酔とサクシニルコリン
エホバの証人の信者と麻酔 − 医療行為は“傷害罪”


圧の単位


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何故吸入麻酔を使うか − 薬効消失速度の制限要因

尿は1〜2L/日
肺胞換気は4L/分,240L/時,6000L/日
あるいは,腎血流や肝血流は1L/分,肺血流は5L/分
つまり,換気で薬物を処理するのは,尿で処理するのよりも3千倍も有効!
漫画,
表:麻酔とファーマコキネティクス

希ガス −−− そのいろいろと使われ方
ヘリウム:FRC測定,喘息の治療,高圧環境
ネオン:これも血流測定に使用することもある.
アルゴン:血流測定
クリプトン:麻酔作用があるが,弱くて実用性はない.
キセノン:1Lが3千円ほどと高価である.
麻酔作用あり.約70%で1MACである.比較的活発に研究中.
帝京大学市原病院麻酔科もこの研究を行っている.
分子量が140ほどあって重い気体なので,X線を吸収する.
それで,最近はこのガスを吸入させて,脳血管撮影を行うようになった.
これはすでに保険も適用できる.
RIは以前からいろいろと使用されている.

薬の量と特異性 −−− fMで効く物質とmMも必要な物質
吸入麻酔薬:大量に必要な薬物の代表.
ハロセンは吸入気1%で効果,この時の脳の濃度は約2%,つまり20ml/L,22.4mL/Lが1mM/Lだから,濃度は1mM/L.
バービチュレイト:40mg/2L,分子量はサイオペンタルC11H18N2S1(MW222)だから0.1mM/L
ベンゾディアゼピン:0.5mg/2L,分子量はディアゼパムC16H13N2O2Cl(MW301)だから0.25mg/L,0.0001mM/L,または0.1μM/L
フェンタニル 5mcg/2L,分子量はC21H27O(MW596)だから0.0008mcM/L,つまり約0.1nM/L

薬物の脳の濃度と薬効のいろいろ 薬物の種類 薬品 脳の薬効濃度
吸入麻酔薬 ハロセン 1mM/L
バービチュレイト サイオペンタル 0.1mM/L
ベンゾディアゼピン ディアゼパム 0.1μM/L
麻薬 フェンタニル 0.1nM/L

麻酔薬はこのように薬効濃度のスペクトルが広いが,筋弛緩薬では差が少ない.


体内時計と睡眠と麻酔 −− 目がさめて時間の経過がわかるかどうか
睡眠では時間の経過がわかる
麻酔では時間の経過がわからない.「もう手術は終わったんですか」
コンピュータの時計と体内時計

笑気で飛行機ごと麻酔できるか − 量と作用の問題
747の容積は客室が29000立方フィート,貨物室が8000,計37400立方フィート,1立方フィートは27リットルだから,37400立方フィートは丁度百万リットル
一番大きなボンベが6000リットルなので,これで一度満たすだけでも168本必要.持続的に流して急速に立上げるとすれば,この10倍くらいのボンベが必要だろう.
これは不可能ではないが,易しいことでもない.

ベルナールの実験 −− 君はベルナールと同じ天才か
蛙の実験の図

舌根の沈下とは −−− SASと麻酔は同じか違うか
舌根沈下の図

酸素解離曲線 −−− 実際的な意味のある例
血液保存の間にDPGが減少する図

ゲンゴロウ −−− 特殊な“肺”
ゲンゴロウの図,その答えの図

キリンの気管と呼吸機能 − 細ければ抵抗,太ければ死腔

キリンの気管は測ろうとした人はいるのだが,明確なデータが発表されていない.一応,長さ1mで太さは直径10cmとしよう.つまり,容積は10Lである.
そうすると,死腔がその位あることになる.一回換気量は15Lとか20Lとかは最低限必要.
キリンの重量は1トン(1000kg)位なので,20Lとして20ml/kgであるから,ヒトや他の哺乳類の5〜7ml/kgというのより少し多い.
これを細くすれば,死腔量は少なくなってガス交換には有利だが,今度は気道抵抗が大きくなり過ぎる.
したがって,キリンの換気条件は本当のところは分かっていないのです.これから調べて下さい.

人工呼吸各種 −−− 陰圧開胸,鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸
陰圧開胸の図
鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸

白身の魚と赤身の魚 −−− 色と活動性
生活と筋肉
人の筋肉でも

山の上や飛行機の酒 −−− 効きやすいというが本当? メカニズムは?
山の上や飛行機の中では「酒が効きやすい」といいます.本当かどうか,調べた人もいるかも知れませんが,私は知りません.しかし,次のような仮説は提出できます.
肝でアルコールを含めて物質の解毒を行うのはマイクロソームの酵素で,酸素を使いますが,この酵素はエネルギーを取りだす電子伝達系と性質が異なることが判明しています.
ミトコンドリアの電子伝達系の場合,必要な酸素分圧は2mmHgとか5mmHgというレベルで,酸素が少量あれば満足に活動します.したがって,Pao2 が少し位低くても,血流が少し余分にあれば,同じ活動を維持できます.
これに対して,マイクロソームの酵素は,必要な酸素分圧が20mmHgとか30mmHgという高いレベルで,酸素分圧の高い動脈血がたっぷり必要です.Pao2 が低下すると,血流の増加では補いにくく活動が維持しにくいのです.
人に対するデータもある筈ですが,とりあえず? のままです.

表面張力の関係する現象 − 新生児呼吸窮迫症
フォン=ネールガールド

パルスオキシメータ −− 原理
原理のスライド
青柳卓雄氏:パルスオキシメーターの原理の発見者(日本光電の技師)
1997年秋のこと,たまたまノーベル賞選考委員の一人と話す機会があり,候補者の推薦を求められたので,青柳氏を推薦しました.

炭酸ガス測定とMCR −− 自然と人間の工夫の一致
これをスライドにする

麻酔と犯罪 −−− 吸入麻酔とサクシニルコリン
エーテルの犯罪
サクシニルコリンの犯罪
サクシニルコリンの化学構造,
サクシニルディコリンとサクシニルモノコリンとアセチルコリン
サクシニルディコリンとサクシニルモノコリンとアセチルコリン

サクシニルコリン(サクシニルディコリン)
CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3

CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3
サクシニルモノコリン
CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3

CH2-C(O)-OH

アセチルコリン
CH3-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3


エホバの証人の信者と麻酔 −− 医療行為は“傷害罪”

傷害罪の除外条件
社会通念
患者の了解
患者のため
対象が成人の場合−−


東京大学のルール
賠償金と慰謝料の問題
対象が未成年の場合


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諏訪邦夫

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