麻酔学の楽しさ−麻酔は人体の生理学と薬理学
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帝京大学市原病院麻酔科 諏訪邦夫 この項目は,ある医科大学の麻酔学最後の講義で,“卒業試験を楽しく準備するために”というつもりで話したものです.内容は自著
諏訪邦夫:麻酔の科学 講談社(勿抂舗・,東京.1989. Pp.1-215 からとったものです.ただし,本のほうは一般向きですが,こちらは医学生向きに少し手を入れて直してあります.
みんなで遊ぼう,麻酔学!?
何故吸入麻酔を使うか −−− 薬効消失速度の制限要因 希ガス −−−−−−− そのいろいろと使われ方 薬の量と特異性 −−−− fMで効く物質とmMも必要な物質 体内時計と睡眠と麻酔 −− 目がさめて時間の経過がわかるかどうか 笑気で飛行機ごと麻酔できるか− 量と作用の問題 ベルナールの実験 −−−− 君はベルナールと同じ天才か
舌根の沈下とは −−−− SASと麻酔は同じか違うか 酸素解離曲線 −−−− 実際的な意味のある例 ゲンゴロウ −−−− 特殊な“肺” キリンの気管と呼吸機能 −− 細ければ抵抗,太ければ死腔 人工呼吸各種 −−−−− 陰圧開胸,鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸 白身の魚と赤身の魚 −−− 色と活動性 山の上や飛行機の酒 −−− 効きやすいというが本当? メカニズムは? 表面張力の関係する現象 −− 新生児呼吸窮迫症
パルスオキシメ−タ −−− 原理 炭酸ガス測定とMCR −− 自然と人間の工夫の一致
麻酔と犯罪 −−−− 吸入麻酔とサクシニルコリン エホバの証人の信者と麻酔 − 医療行為は“傷害罪”
圧の単位
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何故吸入麻酔を使うか − 薬効消失速度の制限要因
尿は1〜2L/日 肺胞換気は4L/分,240L/時,6000L/日 あるいは,腎血流や肝血流は1L/分,肺血流は5L/分 つまり,換気で薬物を処理するのは,尿で処理するのよりも3千倍も有効! 漫画, 表:麻酔とファーマコキネティクス
希ガス −−− そのいろいろと使われ方 ヘリウム:FRC測定,喘息の治療,高圧環境 ネオン:これも血流測定に使用することもある. アルゴン:血流測定 クリプトン:麻酔作用があるが,弱くて実用性はない. キセノン:1Lが3千円ほどと高価である. 麻酔作用あり.約70%で1MACである.比較的活発に研究中. 帝京大学市原病院麻酔科もこの研究を行っている. 分子量が140ほどあって重い気体なので,X線を吸収する. それで,最近はこのガスを吸入させて,脳血管撮影を行うようになった. これはすでに保険も適用できる. RIは以前からいろいろと使用されている.
薬の量と特異性 −−− fMで効く物質とmMも必要な物質 吸入麻酔薬:大量に必要な薬物の代表. ハロセンは吸入気1%で効果,この時の脳の濃度は約2%,つまり20ml/L,22.4mL/Lが1mM/Lだから,濃度は1mM/L. バービチュレイト:40mg/2L,分子量はサイオペンタルC11H18N2S1(MW222)だから0.1mM/L ベンゾディアゼピン:0.5mg/2L,分子量はディアゼパムC16H13N2O2Cl(MW301)だから0.25mg/L,0.0001mM/L,または0.1μM/L フェンタニル 5mcg/2L,分子量はC21H27O(MW596)だから0.0008mcM/L,つまり約0.1nM/L
薬物の脳の濃度と薬効のいろいろ 薬物の種類 薬品 脳の薬効濃度 吸入麻酔薬 ハロセン 1mM/L バービチュレイト サイオペンタル 0.1mM/L ベンゾディアゼピン ディアゼパム 0.1μM/L 麻薬 フェンタニル 0.1nM/L
麻酔薬はこのように薬効濃度のスペクトルが広いが,筋弛緩薬では差が少ない.
体内時計と睡眠と麻酔 −− 目がさめて時間の経過がわかるかどうか 睡眠では時間の経過がわかる 麻酔では時間の経過がわからない.「もう手術は終わったんですか」 コンピュータの時計と体内時計
笑気で飛行機ごと麻酔できるか − 量と作用の問題 747の容積は客室が29000立方フィート,貨物室が8000,計37400立方フィート,1立方フィートは27リットルだから,37400立方フィートは丁度百万リットル 一番大きなボンベが6000リットルなので,これで一度満たすだけでも168本必要.持続的に流して急速に立上げるとすれば,この10倍くらいのボンベが必要だろう. これは不可能ではないが,易しいことでもない.
ベルナールの実験 −− 君はベルナールと同じ天才か 蛙の実験の図
舌根の沈下とは −−− SASと麻酔は同じか違うか 舌根沈下の図
酸素解離曲線 −−− 実際的な意味のある例 血液保存の間にDPGが減少する図
ゲンゴロウ −−− 特殊な“肺” ゲンゴロウの図,その答えの図
キリンの気管と呼吸機能 − 細ければ抵抗,太ければ死腔
キリンの気管は測ろうとした人はいるのだが,明確なデータが発表されていない.一応,長さ1mで太さは直径10cmとしよう.つまり,容積は10Lである. そうすると,死腔がその位あることになる.一回換気量は15Lとか20Lとかは最低限必要. キリンの重量は1トン(1000kg)位なので,20Lとして20ml/kgであるから,ヒトや他の哺乳類の5〜7ml/kgというのより少し多い. これを細くすれば,死腔量は少なくなってガス交換には有利だが,今度は気道抵抗が大きくなり過ぎる. したがって,キリンの換気条件は本当のところは分かっていないのです.これから調べて下さい.
人工呼吸各種 −−− 陰圧開胸,鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸 陰圧開胸の図 鉄の肺,陽圧式人工呼吸,ポリオと人工呼吸
白身の魚と赤身の魚 −−− 色と活動性 生活と筋肉 人の筋肉でも
山の上や飛行機の酒 −−− 効きやすいというが本当? メカニズムは? 山の上や飛行機の中では「酒が効きやすい」といいます.本当かどうか,調べた人もいるかも知れませんが,私は知りません.しかし,次のような仮説は提出できます. 肝でアルコールを含めて物質の解毒を行うのはマイクロソームの酵素で,酸素を使いますが,この酵素はエネルギーを取りだす電子伝達系と性質が異なることが判明しています. ミトコンドリアの電子伝達系の場合,必要な酸素分圧は2mmHgとか5mmHgというレベルで,酸素が少量あれば満足に活動します.したがって,Pao2 が少し位低くても,血流が少し余分にあれば,同じ活動を維持できます. これに対して,マイクロソームの酵素は,必要な酸素分圧が20mmHgとか30mmHgという高いレベルで,酸素分圧の高い動脈血がたっぷり必要です.Pao2 が低下すると,血流の増加では補いにくく活動が維持しにくいのです. 人に対するデータもある筈ですが,とりあえず? のままです.
表面張力の関係する現象 − 新生児呼吸窮迫症 フォン=ネールガールド
パルスオキシメータ −− 原理 原理のスライド 青柳卓雄氏:パルスオキシメーターの原理の発見者(日本光電の技師) 1997年秋のこと,たまたまノーベル賞選考委員の一人と話す機会があり,候補者の推薦を求められたので,青柳氏を推薦しました.
炭酸ガス測定とMCR −− 自然と人間の工夫の一致 これをスライドにする
麻酔と犯罪 −−− 吸入麻酔とサクシニルコリン エーテルの犯罪 サクシニルコリンの犯罪 サクシニルコリンの化学構造, サクシニルディコリンとサクシニルモノコリンとアセチルコリン サクシニルディコリンとサクシニルモノコリンとアセチルコリン
サクシニルコリン(サクシニルディコリン) CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3 | CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3 サクシニルモノコリン CH2-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3 | CH2-C(O)-OH
アセチルコリン CH3-C(O)-O-CH2-CH2-N-(CH3)3
エホバの証人の信者と麻酔 −− 医療行為は“傷害罪”
傷害罪の除外条件 社会通念 患者の了解 患者のため 対象が成人の場合−−
東京大学のルール 賠償金と慰謝料の問題 対象が未成年の場合
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諏訪邦夫
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