麻酔学試験:89年度
--------------------------------------------------------------------------------
東京大学医学部医学科の1989年度卒業試験麻酔学問題の再録です.私が作成したものです.
薬物は,作用点で高濃度の必要なものは,作用の特異性が低く,特定の受容体が存在しないと考えられます.ハロセンとフェンタニルで次の質問に答えて,作用の特異性を比較して下さい (計30).
吸入麻酔薬の薬効の基準として“MAC”を使用します.ハロセンの“MAC”値はいくらですか(±50%位までの幅は許します)(5).
ハロセンの脳組織/ガス分配係数は5です.1MACでの脳内ハロセン濃度をMol/Lで表現して下さい(5).
フェンタニルは30μg/Kgが,1MACとほぼ同じ力価です.また溶解度はすべての組織で等しく,身体組織の密度はすべて1g/mlと仮定します.
フェンタニルの血液組織間の移行は速やかだとして,このレベルでの脳組織のフェンタニルのレベルを推測して下さい(5).
フェンタニルの質量数は約600です.フェンタニルの濃度をMol/Lで表現して下さい(5).
ハロセンとフェンタニルの作用点,作用のメカニズム,特異性を比較考察して下さい(10).
君が65歳男性患者の心停止に蘇生術を施行中とします.状況から冠状動脈不全による心筋梗塞か伝導障害が考えやすいのです.EKG活動はほとんどなく,自脈もふれません. 下の薬物のうち,“とりあえず使用の可能性が低い”と考えるものを2つ選んで,なぜ“使用しないと考える”かを簡潔に記して下さい(10). アドレナリン,ノルアドレナリン,ネオシネフリン,エフェドリン ドーパミン,ドブタミン,イソプロテレノール,ジゴキシン メピバカイン,リドカイン,プロカイン,塩化カルシウム,塩化カリウム,重炭酸ソーダ クラーレ,サクシニルコリン,保存血,濃厚赤血球浮遊液,血小板,FFP
手術の麻酔やICUではいろいろな計測器,モニタ−を使用します.つぎのものは,何をチェックするか,各1行で説明して下さい.二つ以上の機能のある場合,主なものを一つ説明すればけっこうです(10). パルスオキシメーター: 質量分析計(マススペクトロメーター): 赤外線分析装置: 食道聴診器: 橈骨動脈カテーテル:
--------------------------------------------------------------------------------
麻酔学試験回答
ハロセンのマック 0.76%(何かかいてあれば,少し点を上げます).
1MACでの脳内ハロセン濃度をMol/Lで. ガスで1%の濃度は10ml/Lです.22.4mlが1mMですから,モル濃度で表現すれば,1%は0.44mM/Lです.MACでの脳の濃度は上記0.76の5倍なので0.44×.76×5=1.7mM/Lです.(5倍することと,22.4で割ることができていれば,ほぼ満点)
フェンタニルのレベル. これはもちろん30μg/L
フェンタニルの濃度をMol/Lで. 600g が1モルですから,30μgは30×10-6g/600g つまり5×10-8M/L.この問題は皆さん良くできていました.
ハロセンとフェンタニルの作用点,作用のメカニズム,特異性を比較考察. 濃度が10-5も低くて効果を発揮するフェンタニルは,特殊な受容体が存在します.高濃度を要するハロセンは特異性が低いのです. (上記の回答と無関係にハロセンとフェンタニルを比較した人は減点です.)
65歳男性患者の心停止に蘇生術施行中. 下の薬物のうち,“とりあえず使用の可能性が低い”と考えるものを2つ. 選んで良い薬は ノルアドレナリン,ネオシネフリン,エフェドリンジゴキシン,メピバカイン,塩化カリウム,クラーレ,サクシニルコリン,保存血,濃厚赤血球浮遊液,血小板,FFP この問題は,書いた人はほとんど満点です.「答えの文章に“誤ったことが書いてある場合”のみ少し減点しました.
モニター機器
パルスオキシメーター:動脈血“酸素飽和度”の測定(“Pao2 ”の測定では減点) 質量分析計:ガス一般,特に麻酔ガスの測定(その他に,質量分析計の別の使い方を書いてあっても,内容がちゃんとしていれば点を上げています). 赤外線分析装置:炭酸ガスのモニタ−(上に同じ) 食道聴診器:心音と呼吸音 橈骨動脈カテーテル:動脈圧,血液ガス
--------------------------------------------------------------------------------
諏訪邦夫
| |