フッ素系吸入麻酔薬はオゾン層をこわすか?
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フッ素化合物が大気上空のオゾン層を破壊して,紫外線の遮蔽能力を低下させて皮膚癌の元になる,という議論がある.それによって特定のフッ素化合物は生産と使用が禁じられる方向にある.
吸入麻酔薬も笑気以外はフッ素化合物である.それが同じ方向に作用して,大気のオゾン層をこわすことはないのであろうか?
本当のところは不明である.しかし,現時点では一応次のように考えられている.
大気に流出して安定に存在できるフッ素化合物は,
炭化水素で フッ素と塩素以外の分子を含まない という条件のものが上記の作用をもつので重大とされている.この条件に当てはまらないもの,特に水素原子を一つでも含むものは,大気中で不安定で急速に他の物質に転換して最終的に分子状のフッ素になってしまう. 吸入麻酔薬の場合,ハロセン以外は炭化水素構造ではなくてエーテル構造である.もちろん,他のハロゲンを含んでいる.そして唯一の炭化水素であるハロセンも,他のハロゲンを有している.したがって,この理由でフッ素系吸入麻酔薬の使用を控えることは現時点では意味がないと考えられる.
実は,もっと疑わしいものがある.それは笑気である.笑気は,それ自体にフッ素のようにオゾン層を破壊する作用がある.そうして比較的安定で大気での存在時間が長い.また二酸化炭素と同様に,赤外線を吸収する“温室効果”もある.だから笑気の濃度を二酸化炭素と同様に赤外線の吸収で測定することが可能である.
もっとも,麻酔で使用する笑気の量は,木材や化石燃料を燃やすことによってでる笑気の量と比較すると,桁外れに少ない.少ないからかまわないということにはならないが,現時点ではない影に脅える必要はないようである.
参照:木材や化石燃料からでる笑気の量は多くない
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諏訪邦夫
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