体外循環の膵臓傷害とは
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[目的] 体外循環の際に膵臓が損傷を受ける.その頻度を調べ,さらに損傷する因子を,血液分析データに多変量解析を適用して解析する.
[背景] 心臓手術で体外循環を使用すると,膵炎が発生する.膵臓の乏血が原因との見方も有力であるが,決定的な証明はない.正確な原因は現時点では不明といってもいい.
[対象] 実際に体外循環で心臓手術を受けた患者.連続300例を対象とした.
[測定項目] 血清アミレース(アミラーゼ),膵臓アミレースのアイソザイム,血清ライペース(リパーゼ).術後1,2,3,7,10日に測定.
[方法] 膵臓の細胞傷害の定義として,アミレース高値(123U以上)とライペース高値(24U以上)かアイソザイム高値の組み合わせを採用した.さらにあとの方の101例では,尿のトリプシノジェン賦活ペプタイドを測定して,膵臓の酵素の活性上昇の指標とした.
[解析]多変量解析を適用した.
[結果] 80例(27%)で,膵臓細胞傷害を検出した. うち,23例は腹部症状を呈し,3例は重症の膵炎になった. 術後死亡が19例あったが,うち2例は重症膵炎が主因であった. 多変量解析によれば,膵臓細胞傷害と相関の高い因子は,術前の腎不全,弁の手術,術後低血圧,周術期のカルシウムイオン投与であった. カルシウムイオンを800mg/m2 以上投与した場合,それだけで膵臓傷害が発生した.しかもカルシウム投与量と発生率が相関した. トリプシノジェン賦活ペプタイドのレベルは,膵炎の有無と特別の相関はなかった.
[結論] アミレースを指標とすれば,体外循環後の膵臓傷害は頻度が高い.周術期のカルシウムの大量投与は膵臓傷害と相関が高く,おそらく原因の一つであろう.
抄録者:諏訪邦夫 Risk factors for pancreatic cellular injury after cardiopulmonary bypass. Fernandez del Castillo C, Harringer W, Warshaw AL, Vlahakes GJ, Koski G, Zaslavsky AM, Rattner DW NEW ENGL J MED. 1991,325:382-387.
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諏訪邦夫
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