循環系の反応:衰弱した患者の場合
-------------------------------------------------------------------------------- 衰弱した患者の循環系の反応 衰弱した患者に麻酔を施行すると何故循環系の抑制が強いのかを考えよう.
こうした患者では元来貧弱な心機能や血管のト−ンを補うべく,覚醒時には種々の代償機能を十二分に使ってしまっている.それだけに麻酔でこの代償機能がうばわれると破綻を招くのである. 具体的には末梢の組織圧が低くなっており,静脈還流の源たる静脈圧は組織圧で維持されているのでなく,静脈の能動的な収縮によって維持されている. 従って麻酔によって交感神経からの刺激が急速に低下するとそのまま末梢静脈に血液が欝滞して心拍出量低下となる. 薬物のファーマコキネティクス(分布と作用時間)をみると,この群の患者では心拍出量のうちで脳と心臓に分布する比率が比較的高い.腎臓や消化器,筋肉,皮膚などの血流が乏しいからである. またそのために,一度投与した薬物の作用時間が長い.分布容量が小さく,代謝や排泄も遅いからである. 従って衰弱した患者の麻酔に際しては,
大抵の麻酔薬は循環系を抑制する.循環系のパラメ−タ−を測定観察しながら,薬物を少量ずつ投与し,必要なら輸液や昇圧薬で対応しながら進めねばならない. 交感神経を抑制しない薬物を選ぶこともある.フェンタニルを代表とする麻薬系薬物や,ケタミンなどを使用する. 輸液による昇圧作用にあまり期待をかけてはならない.心機能曲線の頂点に近いところで働いている場合も多く,左房圧が上昇しても心拍出量はふえないからである.
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諏訪邦夫
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