電子版麻酔学教科書

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  手術侵襲によるβ受容体の変化をリンパ球でみる #7
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月10日 23時45分
手術侵襲によるβ受容体の変化をリンパ球でみる

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[目的]
手術侵襲による交感神経系の興奮とβ受容体の機能の変化を調べる.

[背景]
交感神経系を興奮させると,交感神経系の機能が低下して,いわゆる“Down regulation”が起る.交感神経系の慢性的興奮では,この点は確立した事実であるが,手術による興奮のような急性の変化でも起るかは未確立である.リンパ球使用は,受容体を検索しやすい対象として選んだもので,それ以上特別の意味はないらしい.

[対象]CABGを中心とする心臓手術患者13例.

[使用薬物]
イソプロテレノル,餅杤生湫歟洶歸1(PGE1),NaF(フッ化ナトリウム)の3者.

[方法]
測定項目は,リンパ球のcAMPと血漿のカテコールアミン.術前は麻酔導入直前に採血.術後は手術の翌日.基底状態での比較と,下の3種類の薬物でリンパ球QRを刺激した状態とで,リンパ球のcAMPを測定した.
イソプロテレノルで刺激する.
PGE1で刺激する.
NaFで刺激する.
上記三者は各々刺激点が異なる.1)は標準的なβ受容体を刺激.2)は1)とは異なる受容体を刺激するが,同じグアニン蛋白Gsと結合する.3)はグアニン蛋白がアデニルサイクレースに作用して,ATPからcAMPをつくるステップを刺激する.


[結果]
cAMPの量を調べると,基底状態と2)とでは差はなかった.
イソプロテレノル刺激では,術前より術後が抑制されていた.
NaF刺激では,術後が逆に亢進していた.
カテコールアミンは全体としては2倍以上に増量したが,cAMPレベルとの相関はなかった.

[結論]
手術侵襲による交感神経系の興奮により,β受容体の感受性は低下する.これは術後1日ではっきりしている.つまり“手術刺激によって交感神経系の Down regulation がおこる”.

抄者注:
リンパ球のβ受容体の意義ははっきりしない.各種細胞に受容体存在が知られている.
受容体の抑制が起ると,Gs蛋白からアデニルサイクレースに作用して,ATPからcAMPをつくる経路の活動性は逆に亢進する,と考えればストーリーはすっきりするのだが.

Cardiac surgery causes desensitization of the beta-adrenergic receptor system of human lymphocytes. Anesth Analg 1992:74:212-8.


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諏訪邦夫

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