麻酔研究における統計学の重要度
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統計解析は,学会発表や論文執筆の基本手技である.統計の取り扱いがどの程度厳密に行われているかの重要性は,どの領域でも当てはまるが,この点を具体的に“麻酔学領域の研究論文”で検証した報告も存在する.
やり方は,麻酔に関係した学会の抄録集をとって,その中で統計がどの位“厳密に”表現されているかを検討している.
[対象と方法]二つのやり方を採用している. “Anaesthetic Research Society”学会の,1988年から1989年にかけての抄録集5冊のうちで,図を中心に単純な統計解析の誤りを探した. 1990年の抄録115題目を対象にして,ここの抄録を詳細に検討し,統計学の上での誤りの種類を分類した.
[結果] 問題として見つかったのは,統計学解析の方法が書いてないもの,不適当なもの,偏差や危険率の計算に問題のあるものなどである. 抄録集5冊で,図が19あった.偏差を明確に示していたのは4つしかなかった.他に4つの図で偏差らしきものが示されていたが,内容が不明であった.それ以外の11,つまり半数以上で偏差の図示がなかった. 1990年の分では,61の抄録に115の誤りがあった.そもそも結果を“数値で出しているから統計解析が必要”とすべき抄録は94しかない.61抄録は,その65%にあたる. 誤りのうちで頻度の高いのは, 検定の手法を述べないもの(29抄録) P値の解釈に必要なデータを述べないもの(21抄録) SEMの誤用(13抄録)である. 信頼限界を明確にしていたのは,7抄録しかなかった. 一般に,第2種誤差(β誤差:差があっても検出できない誤差)を評価する努力をしていない.この点は,まあは止む終えない.しかし,結果がネガティブな論文で解析の検出力を検討したものも一つもなかった.ネガティブな結果をネガティブと結論するには,“本当は差があるが検出できなかったのか”という検討が必要である. 基本的な誤りが,これだけ数多くみられる状況では,統計解析についてガイドラインを設ければ,ずいぶん改善するはずである. 以上はイギリスの検討であるが,この点はイギリスの麻酔に限らない.アメリカの学会,International Anesthesia Research Society の1990年の抄録でも,横軸が時間のグラフで,縦軸は平均値を示しながら,偏差を示していないものが30%(71抄録中25)あった.
[結論] 統計学適用がいい加減過ぎる.ガイドラインを設けて守らせるべきである. 以上は,下記の論文の著者の論旨であるが,諏訪からみるとずいぶん厳し過ぎる感じも受ける.“抄録レベルで”偏差値を必ず加えるべきだとの主張には賛成しない.しかし,一つの主張としては認める. Statistical awareness of research workers in British anaesthesia. Goodman NW, Hughes AO. Br J Anaesth. 68(3):321-324,1992.
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諏訪邦夫
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