笑気は二酸化炭素塞栓の影響を増強する
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[目的] 二酸化炭素塞栓でも,笑気の存在が障害となるかどうかを検証する.
[背景] 空気塞栓では,笑気が存在すると障害が大きくなることが理論と実験で確認されている.これにより,空気塞栓の起りやすい状況・条件では笑気は使用を避けるか,少なくとも濃度を下げるべきことが確立している.二酸化炭素塞栓に,笑気の存在が空気塞栓と同様の障害を“招くことはない”と考える理由はないが,“同様に障害となる”という実験データはないので,それを動物実験で確認する.この問題をしつこく追究している,カリフォルニア大学サンフランシスコ校からの報告である.
[研究の場]動物実験研究室
[対象] イヌ.第1群は7頭,第2群は8頭.麻酔はペントバルビタール.
[使用薬物] 吸入気として笑気/酸素の79%/21%の混合気,空気,純酸素の3種類を使用して比較.塞栓は二酸化炭素で発生させる.
[測定項目]肺動脈圧と投与空気量
[方法] 平均肺動脈圧を測定しながら, 二酸化炭素を静脈内に連続投与する.量は3 ml/kg/分 で,平均肺動脈圧が40%上昇するまで継続する. 二酸化炭素を静脈内にボラスで投与.量は20,40,80mlの3段階.
[結果] 二酸化炭素連続投与では,平均肺動脈圧40%上昇に要する量は,笑気吸入に対して酸素吸入で5.5倍であった. 二酸化炭素ボラス投与では,平均肺動脈圧上昇は,笑気吸入群が酸素または空気吸入群よりも有意に高値だった.その差は,大体2倍程度である. つまり,二酸化炭素塞栓において笑気が併存すると,二酸化炭素塞栓のサイズが拡大することを強く示唆している. 別の論文ですでに確立しているが,二酸化炭素塞栓の障害は,他のガスよりはたしかに少ないことは,この研究でも確認できた.塞栓として入ったガス量が同一なら,二酸化炭素の方が安全性が高い.
[結論] したがって,二酸化炭素塞栓の可能性のある手術では,笑気の使用を避けることをまじめに考えるべきであろう.
Steffey EP, Johnson BH, Eger EI. Nitrous oxide intensifies the pulmonary arterial pressure response to venous injection of carbon dioxide in the dog. ANESTHESIOLOGY. 1980,52:52-55.
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諏訪邦夫
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