腹腔鏡中の循環虚脱の2例
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[目的] 症例2例の提示.いずれも最終的には無事全快して退院した.
[背景] 避妊の目的で,腹腔鏡で卵管を結紮する手術は安全率が高いことになっている.死亡率は10万例に1例程度という.しかもたいていはこの処置に特有とはいえない,たとえば麻酔の障害のようなものである.しかし,ごく稀には特有のものもある.
[研究の場]手術室から病室
[対象]婦人科の患者2例
[使用機器と測定項目]腹腔鏡以外特になし.
[方法] 第1例: 33歳.麻酔は笑気/エンフルレン/少量のフェンタニル/SCC点滴.二酸化炭素を約2L使用して腹腔鏡を施行した.突然,徐脈・結節調律・低血圧・チアノ−ゼ.FIo2 1.0での血液ガスで,Pao2 が60mmHgと低値,Paco2 は39mmHgと正常.その後すぐに回復した. 第2例: 34歳.麻酔は同じ.二酸化炭素使用の腹腔鏡の条件も同じ.やはり同じ経過で,突然,徐脈・低血圧・チアノ−ゼ.FIo2 1.0での血液ガスで,Pao2 が61mmHg.その後すぐに回復した. 2例とも卵管の結紮は何とか終了した.その後は無事に回復して退院した.
[結果] 著しい循環虚脱が発生していることはまちがいない. 原因としては,副交感神経反射の可能性も絶対的には否定できないだろう.卵管の操作で迷走神経反射が起ることは“知られている”(抄者註;文献は上げていない). 二酸化炭素塞栓がもう一つの可能性.これはいくつか報告がある.しかし,計画的に探した場合は見つかっていないので,発生するとしても発生率は低いのだろう. もっとも,たしかに確実な症例報告が遠く1951年にでている(Jenrstrom A. Air embolism during peritoneoscopy. Am J Pathol 1951;21:253). 本例では動脈血の酸素化不良がみられたのも,塞栓を強く疑わせる. とはいえ,迷走神経反射も否定はできない.併存することもありうるのだから,アトロピンのようなものを使っておくのもよい.
[結論] 2例はおそらく二酸化炭素塞栓だろう.
Brantley JC III, Riley PM. Cardiovascular collapse during laparoscopy: A report of two cases. AM J OBSTET GYNECOL. 1988,159:735-737
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諏訪邦夫
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