溺れた子の手当:テレビ
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テレビでの講演と実習の原稿
救急蘇生の基本はどなたも是非知ってほしい知識です.テレビでちょっと見たとか,本で読んだという程度でも,何もやらないより遥かに役に立ちます.それで成功することもあるのです.
溺れるというのは,肺に水が入って,血液に酸素が送れない状態です.「溺れて水をのむ」というとおり,たしかに胃袋にも水は入ります.しかし命にかかわるのは胃に水が入るからではなくて,肺に水が入って血液の酸素が不足するからです.
肺に水が入ると呼吸がとまり,心臓も止ります.ですから肺の水を流しだし,止まった呼吸には人工呼吸を行い,止まった心臓には心臓マッサージをすると生命が蘇るのです.これが蘇生法の基本です.
酸素の不足が短時間なら,脳や心臓は「働き」が止まるだけで壊れてはいません.したがって回復の可能性が大きいのです.いわばスイッチが切れただけですから,スイッチをもう一度入れてやれば動くわけです.
ところが酸素の不足が長時間になりますと脳や心臓が装置として壊れてしまいます.こうなると蘇生が難しくなります.蘇生が成功するというのはこのようにスイッチを入れれば動く段階での処置ですから,時間との競争なのです.
診断: 溺れている子を引きあげたら,まず呼吸と心臓の動きを確認します.“呼吸はしているか”を確認するには胸の動きをみて,同時に鼻と口から空気の出入りがあることを確かめます. 次に心臓が動いているかを確かめます.脈拍を触れる訳ですが,手首より首や太股の付け根がよく触れます.脈が触れなければ心臓に耳を当てて心音を聴きます.
治療: すぐ治療を開始します.まず水を吐かせます.呼吸が弱かったり止まっていれば人工呼吸を行います.心臓も止まっていれば人工呼吸しながら心臓マッサージも併用します. そうして大事なことはこの人工呼吸と心臓マッサージをしながら,すぐ医療機関に運ぶことです.
医療機関での治療: 医療機関での手当にはポイントが二つあります.一つは蘇生法自体を続行して成功させることです.もう一つは二次障害の治療です.汚い水が肺にはいると強い肺炎が起こりますが,これは設備や人員の整っている医療機関ではじめて治療できるものです. 一見回復したようにみえても,医師の診療を一応受けるようおすすめめします.特に元気がなかったり,調子がわるそうなときはとにかく医師に見せるのが安全です.
溺れた子をひきあげたら,一刻も早く人工呼吸と心臓マッサージを行うこと,これを続けながら医療機関に運ぶことです.これが救急蘇生の基本です.
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諏訪邦夫
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