ペインクリニックの概要と問題点の解説
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ペインクリニックにはいろいろな考え方があるが,現時点の日本の習慣としては,“局所麻酔薬を使用した神経ブロック”を中心にした疼痛治療の施設を,このように呼んでいる.本稿ではペインクリニックの組織,患者の分布,治療としての神経ブロックの種類などを説明し,さらに治療の問題点の例として帯状疱疹を取り上げて,帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の関係,それに対する一般の医師とペインクリニック担当医師との認識の差とそれを埋める方策などを提起する.
ペインクリニックの組織と設備 東京大学医学部附属病院の場合,ペインクリニックの人員構成は,フルタイム医師2名,パートタイム医師3名で,後者は手術室での麻酔も担当する.ナースは従来の3名から最近2名に減って,休暇などの際に障害がおきている.他に事務職員が1名いる. 設備は外来に診察室が3つ,処置台が4台ありこれは手術台に類似している.この他に,通常のベッドとストレッチャーを使用して,合計7つ程度のベッドとして使用している.スペースは約20m×7mで,他に,ロッカーと休憩用の小さい部屋がある. 入院は皮膚科の一部に病床5床があり,うち個室が1室ある.ブロックはほとんどが外来で施行している.病棟には人員がついていない.帳簿上は“病棟医長”や病棟医師がいるが,これはすべて手術室での麻酔にかりだされている.
ペインクリニックの活動 ペインクリニックの活動は,患者数で20〜30人/日,年間延べ6000人強である.新患数は250〜300人である.入院患者としては,麻酔科入院の患者以外に,各科の患者を含んでいる. 疼痛治療は時間がかかるのが悩みである.訴えが多く長い.また処置に要する時間も長いものもある.さらに,ブロックそのものの時間は短くても,ブロック終了後の臥床時間が長いために処置台が塞がれてしまって,次に進めないことも多い.
疾患の種類 ペインクリニックの新患分布は,悪性腫瘍関係,帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,反射性交感神経失調,顔面痛と頭痛,顔面麻痺,腰痛・背部痛などが多い.三叉神経痛は大きな領域であったが,微細血管手術の開発により急速に減少している. 適用するブロックの種類は,半数が星状神経節ブロックである. その他に,硬膜外ブロック・仙骨ブロック,肋間神経ブロック,局所浸潤など. 三叉神経ブロック・顔面神経ブロック,星状神経節ブロック以外の交感神経ブロック,後頭神経ブロックなどもある.アルコール・フェノールによる神経破壊処置は主として悪性腫瘍を対象としている.三叉神経ブロック・顔面神経ブロックの数は急速に減少している.
問題点:帯状疱疹を例に 帯状疱疹は,脊髄後根神経節にヘルペスヴィルスがついて,皮膚の発疹と神経の症状を起こす病気である.帯状疱疹は急性期に非常に痛いのが特徴である. 帯状疱疹の一部が慢性化して帯状疱疹後神経痛(ヘルペス後神経痛)となる.この帯状疱疹後神経痛への移行が急性期の神経ブロックで抑えられるかが大問題で,現時点では決着がついていない.医師によって意見がわかれ,その証明にはコントロール臨床試験が必要である. 但し,急性期の痛みが交感神経ブロックなどの神経ブロックで軽減することは確立した事実である.
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諏訪邦夫
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