電子版麻酔学教科書

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  三叉神経痛に関して #12
投稿者  諏訪邦夫
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投稿日時  2001年02月11日 16時13分
三叉神経痛に関して

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病状と診断基準および鑑別診断
手術
薬物治療の方法
神経ブロックの方法
薬物治療・神経ブロック・手術の組み合わせ方
(六法出版社:外科診療Q&A)
三叉神経痛は特発性のものと症侯性のものに分れる.後者は感染と炎症・腫瘍・血行障害を原因とする三叉神経領域の痛みである.一方,特発性三叉神経痛は明確な病像の疾患である.


特発性三叉神経痛の病像
後に説明する手術との関係から,原因として血管の圧迫によるとの説が有力である.一部に腫瘍,とくに奇形腫などによるものもある.一般に高齢者に多いが,30歳未満に発症する場合は腫瘍がみつかる頻度が高い.痛みには次の特徴がある.
激烈な痛みで,部位が明確である.鈍痛はない.
「ピリッ」「ギクッ」「電気をかけたような」と描写する.放散傾向が強い.神経の解剖学的な分布に一致する.
痛みは発作的で,持続は短く5秒から1分位である.当該神経領域の刺激が誘因となる.I枝なら洗髪や髪に櫛を入れる,II枝やIII枝は会話・食事・歯磨き・洗顔・髭そりで起こる.誘因なしにも起こる.
通常の鎮痛薬は無効.抗てんかん薬が有効.

鑑別診断
症侯性三叉神経痛(続発性三叉神経痛)は,痛みが鈍くて持続的である.舌咽神経痛は病像は類似するが,部位が舌咽神経支配領域である.つまり,咽頭・舌根・外耳道である.
偏頭痛は発作が1時間以上と長く,心拍に一致して「ズキンズキン」と痛む,神経支配領域と一致していない点などが異なる.
三叉神経痛の一部に三叉神経起始部の腫瘍が見つかる.若年者の三叉神経痛で頻度が高い.CTやMRIの利用で判明した.

治療:
三叉神経痛の手術治療
三叉神経痛は根治手術が可能となった.“microvascular decompression”と称するが,三叉神経痛起始部を圧迫している血管と三叉神経痛の間にクッションを挿入して圧迫をとる手術である.侵襲は比較的軽度で,治療成績も良好で,知覚や運動麻痺を伴わない.しかし,脳幹部に対する手術なので,重大な合併症の報告もある.この部分に腫瘍が見つかる場合もある.これは切除の効果が大きい.
三叉神経痛の末梢神経切断術やガッセリ神経節の手術も昔は試みられたが,効果が乏しいので現在は施行されない.
三叉神経痛の薬物治療
カーバマゼピン(テグレトール:1錠200mg)が特効的である.一日に1/4錠から最大は3錠/日.副作用として,胃腸障害・眠気・浮遊感の頻度は高い.量に依存する.発疹を中心とするアレルギ−反応もあり,頻度は低い.長期連用で血液と肝臓の障害が報告されている.
カーバマゼピンは,元来抗てんかん薬として開発されたもので,現在でも抗てんかん薬として使われることもあるが,三叉神経痛に対する作用は圧倒的である.
カーバマゼピン以外の抗てんかん薬では,ディフェニルヒダントインを使用する.対象は,アレルギ−などでカーバマゼピンの使用が困難な場合である.
睡眠薬・鎮静薬は単独では無効.上記特効薬の補助薬としては有効.たとえば,ベンゾディアゼピンを組み合わせる.
三叉神経痛の神経ブロック
痛みの領域のなるべく神経の末梢をブロックする.上口唇のみなら眼窩下孔の位置でブロックする.ブロックは局所麻酔薬か無水アルコールを使用する.後者のためには針先を正確に神経鞘内におく必要があり,専門医に任せる.
通常施行するのはI枝は眼窩上神経と滑車上神経,II枝は上顎神経と眼窩下神経,III枝は下顎神経,下歯槽神経である.
局所麻酔薬の作用時間以上に,長時間ないし長期間の除痛が得られる場合もあるが,それがどういう要素に依存するのかは不明である.

手術・薬物・神経ブロックの組み合わせ方
痛みの程度が弱く,薬物必要量が少量で,日常生活への影響が少なければ薬物治療のみでよい.鎮痛が不十分だったり,カーバマゼピンの副作用があれば神経ブロックを施行する.神経ブロックの効果と持続から手術を考慮する.手術は神経ブロックと異なり,感覚や運動の障害を起こさない.また,有効ならブロックと異なり,反復の必要もない.この点も手術の利点である.
腫瘍がみつかれば,当然手術である.CTの発達によって,小さな腫瘍まで容易に検索できるようになり,そのお蔭で三叉神経痛特に若年者のそれに腫瘍によるものが少なくないことが判明した.

最近,味覚刺激によって三叉神経痛発作が起るという珍しい症例報告が出ている.

文献:
Sharav Y, Benoliel R, Schnarch A, Greenberg L. Idiopathic trigeminal pain associated with gustatory stimuli. Pain. 1991 ; 44: 171-4.


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諏訪邦夫

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