ICU患者の感染に非吸収性抗生物質服用は無効
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ICUで人工呼吸を受けている患者を対象に,消化管で吸収を受けない抗生物質を投与して,消化管局所に作用させて感染を防止するという考え方がある.ヨーロッパでは非常に普及し,日常的に使用している.しかし,それが本当に有効でICU患者の生存率を改善するとの証拠はないので,多施設共同のコントロール試験で確認を試みた.
乱数わりつけの2重盲検試験で,使用抗生物質はトブラマイシン,コリスチン,アンフォテリシンBの三者である.抗生物質はプラセーボも含めて鼻管カテーテルに注入し,さらに咽頭部位にも使用した.使用期間は人工呼吸の全期間.
死亡例142例のうち 75 例(34 %) は治療群,67 例(30 %)はプラセーボ群で,有意差なし. 乱数化してから 60 日での死亡率は両群で同じ.(P = 0.40).これは,両群でバランスのとれていないが,両群の期待値にも有意差なし. 研究開始から30日以内に肺炎が発生したのは59 例 (13 %) である.うち33 例はプラセーボ群,26 例は治療群で,有意差なし. ICUで感染した肺炎,グラム陰性桿菌肺炎は,治療群でプラセーボ群に対して有意に低かった. 抗生物質の費用は治療群で2倍以上高かった.
[結論] 消化管で吸収を受けない抗生物質を使用して局所に作用させても,患者の生存率はよくならない.増加するのは医療費だけである.
[抄者註] この結論は,“肺炎発生率が低下した”という結果からは単純過ぎるとも思える.“増加するのは医療費だけ”とは皮肉だ.
文献: A controlled trial in intensive care units of selective decontamination of the digestive tract with nonabsorbable antibiotics. Gastinne H, Wolff M, Delatour F, Faurisson F, Chevret S. New Engl J Med. 326(9):594-599,1992.
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諏訪邦夫
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