フィゾスティグミンで麻酔の回復が滑らかになる
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[目的] 麻酔から覚醒に対して,アミノフィリンとフィゾスチグミンがどう作用するかを比較検討する.
[背景] アミノフィリンは非特異的な意識回復促進剤で,麻薬やベンゾジアゼピンの中枢性の効果を回復させるのに有効で,呼吸を促進し循環系を刺激する効果もある. フィゾスチグミンは中枢性抗コリン薬の特異的拮抗薬として広く使われている.またエンフルレンからの回復期に筋の強調性を改善し,喉頭痙攣を予防する.鎮痛効果を有するともいう.
[対象] 整形外科手術を受ける105人の患者.男68人,女37人.ASAT〜U.
[方法] 麻酔導入はチオペンタール+サクシニルコリン.GOE(エンフルレン2%,自発呼吸)にて麻酔を維持した.麻酔終了10分前に患者を35人ずつ3群に無作為に分けた. アミノフィリン(A)群にはアミノフィリン3mg/kgを, フィゾスチグミン(P)群にはフィゾスチグミン0.04mg/kgを, 生食(S)群には生食を投与した. 抜管後に麻酔薬を切った.回復室で誕生日を質問し,正しく答えた時を覚醒とした.
[結果] 群間で体重,年令,麻酔時間(1時間以上),麻酔終了直後の呼気終末エンフルレン濃度(ETEC;2%),呼気終末炭酸ガス濃度(ETCO2;約6%),呼吸回数(約22回/分)には全て有意差がなかった. 覚醒までの時間はA群(12.1分),P群(19.0),S群(18.1)で,アミノフィリン群で短く,覚醒時のETEC(0.31%, 0.18%, 0.18%)も高かった.差は有意. 術後興奮して暴れたものはA群18人,P群3人,S群14人で,フィゾスチグミン群が有意に少なかった. 術後30分間に痛みを訴えたものはA群22人,P群3人,S群16人でフィゾスチグミン群が有意に少なかった. 1時間後にはフィゾスチグミン群も痛みの訴えが増加した. 術後の悪心嘔吐の頻度には群間に有意差はなかった.
[結論] アミノフィリンは回復時間を短縮したが,痛みの出現も早く看護が必要となった.フィゾスチグミンは回復時間を短縮しなかったが,穏やかで質の良い回復をもたらした.(矢島 直先生の文章を少し書き直した.)
註: 著者の一人,Ruprecht 氏は,ユーゴスラヴィア生まれの麻酔医.このテーマを長年検討している.日本にも何回かきている. Effect of aminophylline or physostigmine on recovery from nitrous oxide-enflurane anaesthesia. Kesecioglu J, Rupreht J, Telci L, Dzoljic M, Erdmann W. ACTA ANAESTHESIOL SCAND. 35/7 (616-620) 1991
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諏訪邦夫
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