術後の悪心嘔吐とエフェドリンの効果
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[目的] エフェドリンで,術後の悪心嘔吐が防げるかを検証する.
[背景] エフェドリンの悪心嘔吐抑制作用は,航空医学や宇宙医学の領域では真面目に研究されて論文になっている.麻酔領域でも,医師間の話として“挿話”的に云われてはいる.しかし,麻酔との関連ではしっかりした定量的な研究はない.
[研究の場]外来手術室
[対象] 外来で全身麻酔手術をうけた患者97例を対象に調査した.元来100例を対象としたが,3例は開腹になったので検討から除外した.処置は腹腔鏡による婦人科手術である.計画的に予定をたてた(prospective )調査である.
[使用薬物] エフェドリン0.5mg/kgとドロペリドル0.04mg/kg.対照として生理食塩水を使用した.エフェドリン群,ドロペリドル群,生理食塩水群はほぼ同数である.
[測定項目と方法] 乱数割り付け2重盲検法による.悪心と嘔吐の頻度,鎮静の度合いや回復室から退室の状況などを,回復室と術後24時間で評価した.24時間評価は電話連絡によった.
[結果] 回復室のデータのみ差がでた. エフェドリンの鎮吐作用はドロペリドルと同等で,プラセーボよりも明らかに強い. エフェドリンの鎮静作用はドロペリドルよりも弱い.そうして面白いことにプラセーボよりも弱い. 平均動脈圧の変化は,3群で差が見られなかった. エフェドリン群が退院が早い傾向が見られた. 24時間のデータでは,3群に差が見られなかった.ただし,生理食塩水群で嘔吐率が高い傾向はあった.
[結論] 外来腹腔鏡患者を対象とした場合,エフェドリンは強力な鎮吐薬であり,鎮静作用などの副作用は少ない.
抄者註: けっこうな量のエフェドリンを投与しているのに,血圧がドロペリドルと差がないというのが興味深い.また,エフェドリンの鎮静作用が生理食塩水よりも弱いとは,エフェドリンの興奮作用を意味するものか? スポーツの領域では,エフェドリンは“興奮薬”として,使用禁止薬のリストに載っている.
抄録者:諏訪邦夫
Efficacy of ephedrine in the prevention of postoperative nausea and vomiting Rothenberg DM, Parnass SM, Litwack K, McCarthy RJ, Newman LM ANESTH ANALG. 1991,72:58-61.
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諏訪邦夫
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